空き家になった実家に届き続けた父宛ての年賀状

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〒457-0846
愛知県名古屋市南区道徳通2-51 道徳ビル1F

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目次

~空き家マイスターが見た人生の物語~

正月明けのある日。

私は名古屋市内の空き家相談で、あるご家族の実家を訪れていました。

玄関ポストには、何通かの郵便物が入っていました。

固定資産税の案内。

保険会社からの封書。

地域の回覧物。

そして、その中に一枚の年賀状がありました。

宛名には、

「〇〇様」

と書かれていました。

その名前は、三年前に亡くなったお父様の名前でした。

ご家族は少し驚いたような表情を浮かべながら、その年賀状を見つめていました。

そして静かに言われました。

「まだ父宛てに届くんですね…。」

その言葉が、とても印象に残っています。


父が亡くなった後の実家

お父様が亡くなられたのは三年前。

長年勤め上げた会社を定年退職し、退職後は地域活動や趣味の家庭菜園を楽しんでいたそうです。

近所付き合いも多く、

友人も多かった。

誰からも慕われる存在だったと、ご家族は話してくださいました。

その後、お母様も施設へ入所。

実家は空き家になりました。

誰も住まなくなった家。

しかし家の中には、今もお父様の気配が残っていました。


毎年届く年賀状

お父様が亡くなった翌年。

一枚の年賀状が届きました。

昔の会社の同僚からでした。

ご家族は事情を説明し、寒中見舞いを送りました。

これで終わると思っていました。

しかし翌年も届きました。

さらに別の友人からも届きました。

そして今年も。

何通かの年賀状が実家のポストへ届けられていたのです。


なぜ届き続けるのか

理由は単純です。

送った方々はお父様が亡くなったことを知らなかったのです。

昔の同級生。

仕事関係の知人。

趣味の仲間。

年賀状だけの付き合いになっていた人も少なくありません。

毎年住所録を見ながら、

「今年も元気かな。」

そんな気持ちで送っていたのでしょう。


一枚の年賀状が運んでくるもの

ご家族は年賀状を整理しながら笑いました。

「父らしいですね。」

差出人を見るたびに思い出話が始まります。

この人とは釣り仲間だった。

この人とは会社で一緒だった。

この人はよく家に遊びに来ていた。

たった一枚の年賀状。

しかしそれは父親の人生そのものを運んできていたのです。


空き家の中に残る時間

私は空き家を数多く見てきました。

不思議なことがあります。

人がいなくなった家には時間が止まったような空気があります。

居間の時計。

本棚。

写真立て。

仏壇。

そして郵便物。

それらが、その家で生きた人の存在を静かに伝えています。


売却の準備

ご家族は実家の売却を決断していました。

管理も限界。

誰も住む予定もない。

現実を考えれば売却は自然な選択でした。

しかし片付けを進めるたびに思い出が出てきます。

アルバム。

表彰状。

古い手帳。

そして毎年届く年賀状。

作業は何度も中断しました。


「父は幸せだったんですね」

ある年賀状には、

「今年も元気にお過ごしください」

と書かれていました。

もちろん、その願いは届きません。

しかし長女様はその文章を見ながら言いました。

「父は幸せだったんですね。」

友人がいた。

仲間がいた。

気にかけてくれる人がいた。

年賀状は、それを家族に教えてくれたのです。


ポストを開けるたびに

空き家管理のため実家へ行くたびに、

ご家族はポストを確認していました。

最初は義務でした。

しかし次第に少し違う気持ちになったそうです。

もしかすると父宛ての手紙が届いているかもしれない。

誰かが父を思い出してくれているかもしれない。

そう考えるようになったのです。


売却の日が近づいて

やがて買主様が決まりました。

引渡しの日も近づいてきました。

実家として過ごす最後のお正月。

その年も数通の年賀状が届きました。

ご家族は一枚一枚丁寧に読みました。

そして差出人へ連絡を入れました。

実家を売却すること。

父が亡くなっていること。

これまでのお礼。


最後の年賀状

売却後、その住所に年賀状が届くことはなくなります。

ポストも新しい所有者のものになります。

つまり、その年の年賀状が最後でした。

ご家族は年賀状を一つの箱にまとめました。

「捨てられないですね。」

そう言いながら笑われました。


空き家マイスターが感じること

不動産の仕事をしていると、

家は資産として扱われます。

土地の価格。

建物の評価。

査定額。

もちろん大切です。

しかし現場ではそれだけではありません。

家には人生があります。

思い出があります。

人とのつながりがあります。

そして年賀状一枚にも、その人が生きた証が残っているのです。


まとめ

空き家になった実家に届き続けた父宛ての年賀状。

それは単なる郵便物ではありませんでした。

友人との縁。

仕事仲間との思い出。

地域とのつながり。

父親が歩んできた人生そのものでした。

だから家族は簡単に処分できなかったのです。


空き家マイスターが見た人生の物語

引渡し前日。

最後の確認を終えたご家族が、空になったポストを見ながら言いました。

「父はもういないけど、たくさんの人に覚えてもらっていたんですね。」

私はその言葉が忘れられません。

家は人が住まなくなると空き家になります。

しかし、その家で生きた人の記憶までは消えません。

一枚の年賀状。

それは亡くなった父親が残してくれた、人とのつながりの証でした。

そして私は今日も空き家の現場で、

建物の向こう側にある家族の物語に耳を傾けています。

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