~売れない土地ではなかった。相続が終わらない土地だった。~
「土地は売りたいんです。」
そう話されたのは70代の女性でした。
しかし、
その後に続いた言葉が印象的でした。
「でも、相続人が何人いるのか分からないんです。」
不動産売却の相談としては、
少し珍しい始まりでした。
売れない理由は土地ではなかった
場所は名古屋市瑞穂区。
最寄駅からも近く、
住宅地として人気のあるエリアです。
土地の形も悪くありません。
接道も問題ない。
高低差もない。
擁壁もない。
再建築不可でもない。
不動産として見れば、
十分売却可能な土地でした。
それでも何年も動けなかったのです。
理由は一つ。
相続が終わっていなかったからです。
父の死から始まった話
売主様のお父様が亡くなったのは十数年前。
当時は、
「そのうち手続きしよう」
そんな感覚だったそうです。
急いで売る必要もなかった。
固定資産税も払えていた。
土地もそのまま残していた。
しかし年月が経つにつれ、
状況は複雑になっていきました。
相続人は何人いるのか
最初は、
兄弟姉妹だけだと思っていました。
ところが戸籍を取得すると、
話は変わります。
亡くなった兄。
その子ども達。
さらに代襲相続。
昔は付き合いのあった親族。
何十年も会っていない親族。
少しずつ相続人が増えていったのです。
戸籍は家族の歴史だった
相続手続きで戸籍を集める。
言葉にすると簡単です。
しかし実際には、
家族の歴史をたどる作業です。
結婚。
転籍。
離婚。
死亡。
養子縁組。
古い戸籍には、
その家族が歩んできた人生が記録されています。
今回も同じでした。
明治時代の戸籍。
戦後の戸籍。
手書きの戸籍。
何十通もの書類。
まるで家系図を作るような作業でした。
一人だけ見つからない
相続人はほぼ判明しました。
しかし最後の一人だけが見つかりません。
住所を追う。
戸籍の附票を確認する。
転居履歴を調べる。
しかし手掛かりがない。
親族も知らない。
何十年も連絡が取れていない。
生きているのかさえ分からない。
売主様は不安そうに言いました。
「もう無理なんでしょうか。」
土地よりも難しい問題
私はこれまで、
崖地も見てきました。
擁壁のある土地も見てきました。
再建築不可もありました。
しかし、
時々感じます。
本当に難しいのは土地ではない。
人なのだと。
土地は調査できます。
測量もできます。
価格も出せます。
しかし、
相続人探しは違います。
人生そのものを追う作業になるからです。
そして今回も、
最後の一人が見つからないまま、
時間だけが過ぎていきました。
ところが、
ある日。
状況が大きく動くことになります。
【名古屋市瑞穂区の相続土地売却事例】|「戸籍を追い続けて見つかった最後の相続人」
~売却を止めていたのは土地ではなく、家族の歴史だった~
「相続人は全員分かりましたか?」
売主様から何度も聞かれた言葉です。
しかし、
私たちは即答できませんでした。
なぜなら、
戸籍を調べるたびに、
新しい相続人が現れていたからです。
相続人は増えることがある
多くの方は、
相続人は減るものだと思っています。
しかし現実は違います。
増えることがあります。
今回もそうでした。
当初、
相続人は兄弟姉妹数名だけだと思われていました。
ところが戸籍をたどると、
既に亡くなっている兄弟がいました。
そして、
その子ども達が相続人になっていたのです。
代襲相続という制度
ここで登場するのが、
代襲相続です。
本来相続人になる人が先に亡くなっている場合、
その子どもが権利を引き継ぎます。
例えば、
長男が亡くなっている。
すると、
長男の子ども達が相続人になる。
これが代襲相続です。
法律上は当然の仕組みですが、
実際の現場では非常に複雑になります。
知らない親族が相続人になる
売主様は驚いていました。
「一度も会ったことがありません」
それも無理はありません。
従兄弟。
甥。
姪。
親世代では交流があっても、
子ども世代では交流がなくなっていることがあります。
そして相続が発生した時、
初めて存在を知ることも少なくありません。
戸籍の束が厚くなっていく
調査が進むにつれて、
戸籍も増えていきました。
除籍謄本。
改製原戸籍。
戸籍謄本。
戸籍の附票。
明治時代の戸籍まで遡ることもあります。
気付けば、
一冊の本のような厚さになっていました。
私は時々思います。
戸籍は家族の歴史そのものだと。
そこには、
何世代にもわたる人生が記録されているのです。
そして最後の一人
しかし、
最後の一人だけが見つかりません。
住所が分からない。
連絡先もない。
親族も知らない。
数十年前から音信不通。
売主様も不安になっていました。
「もし見つからなかったらどうなるんでしょうか。」
実は、
こうした相談は珍しくありません。
不在者財産管理人という制度
そこで検討されたのが、
不在者財産管理人でした。
不在者財産管理人とは、
行方不明者の財産を管理するため、
家庭裁判所が選任する人です。
相続人の一人が長期間所在不明。
連絡も取れない。
生死も不明。
そうした場合、
家庭裁判所へ申立てを行い、
不在者財産管理人が選任されることがあります。
そして一定の条件を満たせば、
不動産売却へ進める可能性があります。
業界の本音
現場では、
「相続人が一人見つからない」
という理由だけで、
何年も空き家が放置されるケースがあります。
しかし、
制度を知らないだけの場合も少なくありません。
もちろん、
不在者財産管理人の申立ては簡単ではありません。
時間もかかります。
費用もかかります。
裁判所の関与も必要です。
それでも、
解決策が存在することは大きな意味があります。
状況が動いた日
そして、
不在者財産管理人の準備を進めようとしていた頃でした。
ある戸籍の附票から、
新しい住所情報が見つかりました。
わずかな手掛かりでした。
しかし、
そこから調査が進みます。
そしてついに、
最後の相続人と連絡が取れたのです。
十数年間止まっていた相続が、
動き出した瞬間でした。
最後の相続人の言葉
連絡を受けたその方は、
こう話されました。
「私もいつか連絡が来ると思っていました。」
長年疎遠になっていただけでした。
争うつもりもない。
手続きを拒否するつもりもない。
ただ、
誰も連絡先を知らなかっただけだったのです。
売却の日
その後、
遺産分割協議がまとまり、
相続登記が完了しました。
そして土地は売却されました。
売主様は決済の日、
静かにこう言われました。
「土地を売れたことより、家族のことが整理できた気がします。」
私はその言葉が印象に残っています。
相続は不動産の話ではない
今回改めて感じたことがあります。
相続とは、
土地の問題ではありません。
建物の問題でもありません。
家族の歴史を整理する作業です。
だから時間がかかる。
だから簡単ではない。
そして時には、
戸籍を何十通も集め、
代襲相続を確認し、
不在者財産管理人まで検討することになります。
それでも、
一つずつ整理していけば前へ進むことができます。
まとめ
今回の瑞穂区の土地は、
売れない土地ではありませんでした。
相続が終わらない土地だったのです。
代襲相続によって増えた相続人。
行方不明になっていた最後の相続人。
不在者財産管理人の検討。
様々な壁がありました。
しかし、
戸籍を追い続けた結果、
相続は完了しました。
不動産売却の現場では、
土地よりも人の方が難しいことがあります。
そして今回の事例は、
まさにそれを教えてくれた出来事だったのです。
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