こんにちは。
趣味は街歩き。名古屋市の街を歩き続けて8年になる、街歩き空き家マイスター、ふどうさんのMAGOの保木です。
今回ご紹介するのは、名古屋市中村区にある相続空き家の売却事例です。
お父様が亡くなってから15年。
兄弟間に争いはなく、実家を誰が引き継ぐかについても、家族の中では話ができていました。
しかし、遺産分割協議書は作成していませんでした。
相続登記も行われず、土地と建物の登記名義は亡くなったお父様のままでした。
その間に相続人の一人だった弟様も亡くなり、相続関係はさらに複雑になっていました。
この実家は、売れない不動産だったわけではありません。
売却できる状態まで、相続人と権利関係が整理されていない不動産だったのです。
※相続関係者のプライバシーに配慮し、取引の趣旨に影響しない範囲で、家族構成や経緯の一部を簡略化しています。
父が亡くなった日から、実家の時間が止まり始めた
お父様が亡くなったのは、今から15年前でした。
玄関には、お父様が履いていた靴。
居間には、いつも座っていた座椅子。
本棚には、読みかけの本。
カレンダーは、最後にめくられた月のままでした。
ご家族にとって、すぐに実家を片付けることは簡単ではありませんでした。
しかし、相続をめぐって家族が争っていたわけではありません。
兄弟仲は良く、実家をどうするかについても何度か話をしていました。
「しばらくは残しておこう」
「いずれ売ることになるかもしれない」
「手続きは、そのときにすればいい」
皆様がそのように考え、誰かが強く反対することもありませんでした。
だからこそ、相続手続きを急ぐ理由が見つからなかったのです。
長男様が15年間、実家を管理していた
実家は、名古屋市中村区の住宅地にある築40年以上の一戸建てでした。
駅からは少し離れていましたが、土地としての需要が見込める場所です。
相続後、建物には誰も住まなくなりました。
市内に住む長男様が定期的に実家へ通い、次のような管理を続けていました。
- 室内の換気
- 庭の草刈り
- 郵便物の回収
- 建物外部の確認
- 固定資産税の支払い
妹様も弟様も、長男様が管理することに反対はありませんでした。
長男様は、実際に税金を支払い、家を管理しているため、自分が実家を引き継いだような感覚を持っていたそうです。
しかし、不動産を管理していることと、登記名義を取得していることは同じではありません。
固定資産税を長年支払っていたとしても、それだけで長男様の単独名義になるわけではありません。
家族で話していたため、相続は終わったと思っていた
ご兄弟は、実家について何度も話し合っていました。
売却するのか。
残しておくのか。
誰が管理するのか。
口頭では、ある程度の方向性が決まっていました。
しかし、それを証明できる書類がありませんでした。
- 遺言書がない
- 遺産分割協議書がない
- 相続登記をしていない
- 登記名義は父親のまま
家族全員が同じ認識を持っている間は、表面上の問題は起こりません。
ところが、年月が経ち、相続人の死亡や家族関係の変化が起きると、「当時どのような話をしたのか」を確認することが難しくなります。
口頭で話がまとまっていたとしても、売却や登記の場面では、その内容を改めて書面にし、必要な相続人全員の合意を確認しなければならないことがあります。
売却を考えたきっかけは、近隣からの電話
状況が変わったのは、近隣の方から連絡があったことでした。
「庭木が道路へ出ています」
「屋根瓦の状態が少し気になります」
長男様は、急いで現地へ向かいました。
定期的に通っていたつもりでも、久しぶりに建物を注意深く見ると、想像以上に劣化が進んでいました。
雨どいは一部外れ、外壁にも傷みが見られます。
庭木は大きく成長し、道路や隣地への影響を心配しなければならない状態でした。
空き家は、人が住んでいる家よりも変化に気づきにくいものです。
雨漏りや設備故障が起きても、日常生活の中で発見する人がいません。
長男様は、このとき初めて、
「そろそろ実家を何とかしなければならない」
と強く感じたそうです。
相続空き家の売却相談で判明した問題
その後、弊社へ実家売却のご相談をいただきました。
建物は築40年以上でしたが、土地としての需要は見込めました。
道路や敷地条件などの確認は必要でしたが、売却の可能性は十分にあると考えられました。
そこで、所有関係を確認するため、長男様へお尋ねしました。
「相続登記は終わっていますか」
長男様は少し考えてから、次のように答えられました。
「たぶん、していないと思います」
登記事項証明書を確認すると、土地と建物の所有者は、15年前に亡くなったお父様のままでした。
相続は、お父様が亡くなった時点で開始しています。
しかし、誰がこの不動産を取得するのかという遺産分割と、その結果を登記簿へ反映する相続登記が終わっていなかったのです。
父名義の不動産は、そのままでは売却できない
亡くなった方の名義のまま、買主へ直接所有権を移転することはできません。
原則として、現在の相続人を確定し、相続登記を行ったうえで売却手続きを進める必要があります。
法務省も、相続した不動産を売却する場合には相続登記が必要であると案内しています。
今回も、買主を探す前に、まず次の手続きが必要になりました。
- お父様の出生から死亡までの戸籍を集める
- 当時の法定相続人を確認する
- その後に亡くなった相続人の戸籍を集める
- 現在の相続関係を確定する
- 相続人全員で遺産分割について協議する
- 遺産分割協議書を作成する
- 必要な署名・実印による押印を受ける
- 印鑑証明書などの必要書類をそろえる
- 相続登記を申請する
- 登記完了後、売却手続きを進める
15年前に止まっていた相続手続きが、ここから再び動き始めました。
戸籍調査で分かった「数次相続」
司法書士と連携し、相続人を確定するための戸籍調査を始めました。
そこで問題になったのが、弟様が、お父様の死亡後に亡くなっていたことです。
今回のように、最初の相続手続きが終わらない間に相続人が亡くなり、次の相続が発生することを、一般に「数次相続」といいます。
お父様が亡くなった時点では、相続人は兄弟3人を中心とする比較的分かりやすい関係でした。
しかし、その後に弟様が亡くなったため、弟様が有していた相続上の地位や権利は、弟様の相続人へ引き継がれることになりました。
弟様に配偶者や子がいる場合は、その方々が関係者となる可能性があります。
そのため、現在の遺産分割では、甥や姪などを含む複数の関係者へ事情を説明し、合意を得る必要が生じました。
「代襲相続」と「数次相続」は異なる
相続人の子どもが関係するため、今回のような状況を「代襲相続」と表現されることがあります。
しかし、正確には発生した順番によって扱いが異なります。
- お父様より先に弟様が亡くなっていた場合:代襲相続
- お父様の死亡後、遺産分割前に弟様が亡くなった場合:数次相続
今回の事例は、後者の数次相続です。
この違いによって、集める戸籍や遺産分割協議へ参加する人が変わる可能性があります。
相続関係を家族の記憶だけで判断せず、戸籍をたどって確認することが重要です。
甥や姪には、最初から事情を説明する必要があった
長男様や妹様にとって、対象不動産は自分たちが育った実家です。
しかし、甥や姪にとっては祖父母の家であり、長年訪れていない不動産でした。
突然、遺産分割協議書だけが送られてきたら、
「なぜ今になって手続きするのか」
「なぜ自分の署名が必要なのか」
「実家はいくらで売却する予定なのか」
「自分にはどのような権利があるのか」
と疑問を持つのは当然です。
今回も、書類を郵送して押印をお願いするだけでは済みませんでした。
まず、15年前からの経緯を説明する必要がありました。
- なぜ相続登記をしていなかったのか
- 誰が空き家を管理してきたのか
- なぜ今、売却を考えているのか
- 建物が現在どのような状態なのか
- 売却代金や費用をどう扱うのか
- なぜ遺産分割協議書が必要なのか
相続手続きでは、書類を整える前に、関係者の理解を得ることが重要です。
遺産分割協議書は「署名をもらうための紙」ではない
遺産分割協議書は、相続人へ突然送って押印してもらえば終わる書類ではありません。
本来は、相続人全員が遺産の分け方について話し合い、合意した内容を書面にしたものです。
実務上は、次の順番を意識する必要があります。
- 現在の相続人を正確に確認する
- 不動産や預貯金などの遺産を確認する
- 各相続人へ事情を説明する
- 遺産の分け方について協議する
- 合意内容を遺産分割協議書へ記載する
- 相続人全員が内容を確認して署名・押印する
- 協議内容に基づいて相続登記を申請する
誰か一人でも内容に納得していなければ、遺産分割協議は成立しません。
また、相続人の一部を見落とした協議は、後から問題になる可能性があります。
相続人の人数が増えるほど、説明、連絡、書類のやり取りに時間がかかります。
長男様が何度も口にした後悔
手続きを進める中で、長男様が何度か口にされた言葉があります。
「父が亡くなったときに、手続きをしておけばよかった」
お父様が亡くなった直後であれば、現在より関係者が少なく、話し合いも進めやすかった可能性があります。
しかし、15年の間に相続人の一人が亡くなり、その方の配偶者や子など、次の世代が手続きへ関係することになりました。
時間が経てば、相続手続きが自然に簡単になるわけではありません。
むしろ、次のような問題が起きやすくなります。
- 相続人が亡くなり、次の相続が発生する
- 関係者の人数が増える
- 遠方に住む相続人が増える
- 連絡先が分からなくなる
- 当時の話し合いを知る人が減る
- 権利証や固定資産税関係書類を紛失する
- 建物の劣化と管理費用が増える
- 家族ごとに不動産への考え方が変わる
「揉めていないから急がなくてもよい」という状態は、将来もそのまま続くとは限りません。
2024年4月から相続登記は義務化されている
2024年4月1日から、相続登記の申請が義務化されています。
相続によって不動産を取得したことを知った日から、原則として3年以内に相続登記を申請する必要があります。
義務化前に発生した相続も対象です。
2024年4月1日より前に相続したことを知っていた未登記不動産については、原則として2027年3月31日までに申請する必要があります。正当な理由なく義務に違反した場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
つまり、「父が亡くなったのは15年前だから、義務化とは関係がない」ということではありません。
過去に発生した相続であっても、父親や母親の名義のままになっている不動産は確認が必要です。
遺産分割がまとまらない場合の相続人申告登記
期限までに遺産分割協議がまとまらない場合に利用できる制度として、「相続人申告登記」があります。
登記簿上の所有者について相続が開始したことと、自分がその相続人であることを法務局へ申し出る制度です。
この申出によって、申出をした相続人は相続登記の申請義務を履行したものと扱われます。
ただし、相続人申告登記を行っても、亡くなった方から不動産を取得した相続人への正式な所有権移転登記が完了するわけではありません。
登記名義人は被相続人のままです。
そのため、不動産を売却するには、最終的に遺産分割などを行い、その結果に基づいた相続登記が必要になります。
数か月後、相続登記が完了
今回の事例では、関係者へ一人ずつ事情を説明し、遺産の分け方について協議しました。
すぐに全員の合意が得られたわけではありません。
質問への回答や書類の確認を重ね、ようやく必要な準備が整いました。
- 相続関係を証明する戸籍
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の署名・押印
- 印鑑証明書
- 固定資産評価証明書などの登記書類
司法書士が相続登記を申請し、数か月後、登記完了を確認することができました。
そのとき、長男様は少し安心した表情をされました。
実家の買主が決まったからではありません。
15年間止まっていた家族の手続きが、ようやく一つ前へ進んだからでした。
売却活動は、相続登記のめどが立ってから進めた
相続関係と登記手続きのめどが立った後、実家の売却を進めました。
建物は築40年以上でしたが、土地として検討できる条件がありました。
そこで、次の点を整理して販売しました。
- 現在の建物状態
- 古家付きで売却する場合の条件
- 解体費用の概算
- 土地としての利用可能性
- 道路と接道状況
- 境界や越境の有無
- 引渡し時期
- 売主が負担する費用
- 相続登記の進捗状況
その後、購入希望者が見つかり、売買契約を締結しました。
残代金決済と所有権移転登記も無事に完了し、実家は新しい所有者へ引き渡されました。
振り返ると、売却活動そのものは比較的順調でした。
最も時間と調整を必要としたのは、売却ではなく、その前提となる相続人と権利関係の整理でした。
決済後の「肩の荷が下りました」という言葉
決済が終わった後、長男様は静かにおっしゃいました。
「実家が売れたというより、肩の荷が下りました」
この言葉が強く印象に残っています。
長男様が15年間抱えていたのは、建物だけではなかったのだと思います。
草刈りをしなければならない。
近隣へ迷惑をかけてはいけない。
税金を支払わなければならない。
いつか兄弟で話をまとめなければならない。
そうした責任を、一人で引き受けている感覚があったのかもしれません。
実家の売却は、不動産を手放すことだけを意味しません。
長年止まっていた家族の問題に区切りをつける手続きになることもあります。
相続空き家を放置すると増えやすい負担
相続登記をしないまま空き家を放置すると、権利関係以外にもさまざまな負担が生じます。
建物の劣化
雨漏り、外壁、屋根、雨どいなどの不具合は、発見が遅れるほど修繕費が増える可能性があります。
庭木や雑草の管理
草木が道路や隣地へ越境すると、近隣から苦情が寄せられることがあります。
固定資産税などの負担
誰も利用していなくても、所有している限り固定資産税等の負担は続きます。
相続人の増加
相続人が亡くなると新たな相続が発生し、配偶者や子などが関係者となることがあります。
売却判断の長期化
相続人が増え、考え方が異なるほど、売却価格や費用負担について合意するまでに時間がかかる可能性があります。
父・母名義の実家を確認するためのチェックリスト
相続した実家が空き家になっている方は、次の項目を確認してみてください。
- 土地と建物の登記名義は誰か
- 遺言書は残されているか
- 遺産分割協議書はあるか
- 当時の相続人は誰だったか
- 相続人の中に、その後亡くなった方はいないか
- 現在の連絡先が分からない相続人はいないか
- 固定資産税を誰が支払っているか
- 権利証や登記識別情報は保管されているか
- 建物や庭を誰が管理しているか
- 近隣へ影響する破損や越境はないか
- 売却・賃貸・利用について家族で話し合っているか
登記名義が分からない場合は、法務局で登記事項証明書を取得することで確認できます。
相続関係が複雑な場合は、自己判断で遺産分割協議書を作成する前に、司法書士や弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。
名古屋法務局と愛知県司法書士会による予約制の無料登記相談も案内されています。
まとめ|売れない実家ではなく、相続手続きが止まった実家だった
今回の名古屋市中村区の実家は、売れない不動産ではありませんでした。
遺産分割と相続登記が終わっていないため、すぐには売却できない不動産でした。
お父様が亡くなった当時、ご兄弟の関係は良好で、大きな争いもありませんでした。
しかし、書面と登記を整えないまま15年が経過しました。
その間に弟様が亡くなり、数次相続が発生します。
相続手続きへ関係する人が増え、戸籍の収集、事情説明、遺産分割協議書への署名・押印に多くの時間が必要になりました。
それでも、
- 戸籍を集める
- 現在の相続人を確認する
- 関係者へ事情を説明する
- 遺産分割協議を行う
- 相続登記を完了させる
- 不動産の条件を整理する
という手続きを一つずつ進めたことで、実家を無事に売却することができました。
相続は、時間が解決してくれる問題ではありません。
「そのうちやろう」と先送りしている間に、相続人や必要書類が増え、建物の劣化も進む可能性があります。
父親や母親の名義のままになっている不動産がある場合は、まず登記名義と現在の相続人を確認することが第一歩です。
名古屋市中村区で相続空き家の売却をお考えの方へ
ふどうさんのMAGOは、名古屋市南区を拠点に、中村区をはじめとする名古屋市内の空き家・相続不動産の売却をお手伝いしています。
相続登記が終わっていない場合でも、司法書士などの専門家と連携し、売却までに必要な手続きを整理します。
- 父親や母親の名義が残っている
- 遺産分割協議書を作成していない
- 相続から何年も経過している
- 相続人の一人が亡くなっている
- 甥や姪など相続関係者が増えている
- 共有者の意見がまとまらない
- 遠方に住んでいて空き家を管理できない
- 建物の老朽化や近隣への影響が心配
- 何から始めればよいか分からない
このような段階でもご相談いただけます。
不動産の査定だけを先に進めるのではなく、相続関係、登記名義、建物状態、道路、境界などを確認し、実際に売却できる状態までの工程を整理することが重要です。
名古屋市中村区の相続空き家、長期間放置された実家、名義変更されていない不動産でお悩みの方は、ふどうさんのMAGOへお気軽にご相談ください。
対応エリア
名古屋市南区・港区・緑区・千種区・熱田区・名東区・昭和区・瑞穂区・中村区・中川区・守山区・中区・天白区をはじめ、名古屋市全域および愛知県内に対応しています。
※本記事は個別の売却事例をもとに、プライバシーへ配慮して内容を一部編集しています。相続人の範囲、遺産分割や登記に必要な書類・手続きは、家族関係、遺言書の有無、死亡した順番などによって異なります。個別の登記手続きは司法書士、相続争いや法律判断については弁護士、税務については税理士などの専門家へご確認ください。


