~誰も困っていなかったはずだった~
父が亡くなったのは15年前。
その日から、
実家の時間はゆっくり止まり始めました。
玄関には父の靴。
居間には父の座椅子。
本棚には読みかけの本。
カレンダーは、
最後にめくられた月のままでした。
家族は悲しみに暮れました。
しかし、
相続で揉めることはありませんでした。
兄弟仲も良かった。
だから皆、
こう思っていたのです。
「そのうち手続きをしよう。」
誰も急いでいなかった
場所は名古屋市中村区。
駅から少し離れた住宅街。
築40年以上の一戸建てでした。
長男様は市内在住。
定期的に実家へ通います。
草刈り。
換気。
郵便物確認。
固定資産税の支払い。
自然と管理役になっていました。
妹様も特に反対はありません。
弟様も異論はありません。
だから問題ないと思っていました。
相続は終わっていると思っていた
実際、
兄弟で何度も話しています。
この家はどうするか。
将来売るか。
残すか。
口頭では決まっていました。
しかし、
書類はありません。
遺産分割協議書もない。
相続登記もしていない。
名義は亡くなった父親のままです。
それでも15年間、
特に困ることはありませんでした。
きっかけは一本の電話
状況が変わったのは、
ある日でした。
近隣の方から電話が入ります。
「庭木が道路にはみ出しています。」
「屋根瓦が少し気になります。」
長男様は慌てて現地へ向かいました。
久しぶりに見る実家は、
想像以上に傷んでいました。
雨樋は外れ。
外壁も劣化。
庭木も大きく成長していました。
その時初めて思ったそうです。
「そろそろ何とかしないといけない。」
売却相談
その後、
実家売却の相談をいただきました。
建物は古い。
しかし土地としての需要はあります。
売却自体は可能そうでした。
ところが、
そこで一つの問題が見つかります。
「相続登記はされていますか?」
私は確認しました。
長男様は少し考えて、
こう答えました。
「たぶんしていないと思います。」
15年ぶりに始まった相続
登記簿を確認します。
所有者は父親のまま。
つまり、
法律上はまだ相続が終わっていません。
ここから、
15年間止まっていた相続手続きが動き始めることになります。
しかし、
長男様はまだ気付いていませんでした。
本当に大変なのは、
売却ではなく、
相続手続きそのものだということを。
そして戸籍調査が始まった時、
家族も知らなかった事実が次々と見つかることになるのです。
【名古屋市中村区の相続空き家売却事例】
後編|「父が亡くなって15年。遺産分割協議書がなかった実家の結末」
~そのうちやろうが、一番高くつくことがある~
「兄弟3人だから簡単だと思っていました。」
長男様は苦笑いしながら話されました。
確かに15年前、
相続人は兄弟3人だけでした。
父親が亡くなった時も、
大きな争いはありません。
仲も悪くない。
だから急ぐ必要もない。
そう考えていたのです。
戸籍を集め始めて分かったこと
売却準備のため、
司法書士と連携して戸籍調査が始まりました。
すると、
一つの事実が判明します。
弟様が数年前に亡くなっていたのです。
もちろん家族は知っています。
問題はその先でした。
相続人が増えていた
弟様が亡くなったことで、
相続権は弟様の子ども達へ引き継がれていました。
いわゆる代襲相続です。
15年前は兄弟3人。
しかし現在は、
甥や姪を含む複数人。
相続人の人数が増えていたのです。
「話は聞いていません」
さらに難しかったのは、
甥や姪にとって今回の実家は、
思い入れの薄い不動産だったことです。
長男様にとっては実家。
妹様にとっても実家。
しかし甥や姪にとっては、
祖父母の家。
それも何年も訪れていない家でした。
当然、
事情を説明する必要があります。
なぜ売却するのか。
なぜ遺産分割協議書が必要なのか。
なぜ今になって手続きするのか。
一つ一つ説明するところから始まりました。
遺産分割協議書は魔法の紙ではない
時々、
遺産分割協議書に印鑑をもらえば終わりだと思われる方がいます。
しかし現実は違います。
まず理解してもらう。
納得してもらう。
その上で署名押印していただく。
順番が逆になると、
話はまとまりません。
今回も、
書類を送れば終わる話ではありませんでした。
長男様の後悔
手続きを進める中で、
長男様が何度か口にされた言葉があります。
「父が亡くなった時にやっておけば良かった。」
15年前なら、
相続人はもっと少なかった。
説明する相手も少なかった。
書類も少なかった。
しかし時間は戻りません。
相続は放置すると、
簡単になることはほとんどありません。
むしろ複雑になることが多いのです。
相続登記が完了した日
数か月後。
ようやく全員の署名押印が揃いました。
戸籍も揃った。
遺産分割協議書も完成した。
そして相続登記申請。
法務局から登記完了の連絡が届きます。
その時、
長男様は少し安心した表情をされました。
実家を売れるようになったからではありません。
15年間止まっていた手続きが、
ようやく終わったからでした。
売却よりも大変だったこと
その後、
売却活動は比較的順調でした。
買主も見つかりました。
契約も成立しました。
決済も無事完了しました。
しかし振り返ると、
一番大変だったのは売却ではありません。
相続でした。
不動産の価値を調べることではなく、
家族の権利を整理することでした。
決済の日の一言
決済が終わった後、
長男様は静かに言いました。
「実家が売れたというより、肩の荷が下りました。」
私はこの言葉が印象に残っています。
15年間抱えてきたものは、
建物ではありません。
責任だったのかもしれません。
現場で感じること
空き家相談の現場では、
「そのうちやろうと思っていました。」
という言葉を本当によく聞きます。
しかし、
相続は時間が解決してくれる問題ではありません。
時間が経つほど、
戸籍は増える。
相続人は増える。
連絡先は分からなくなる。
手続きは複雑になる。
だからこそ、
早めの整理が重要なのです。
まとめ
今回の中村区の実家は、
売れない不動産ではありませんでした。
相続が終わっていない不動産でした。
遺産分割協議書がない。
相続登記もしていない。
その状態で15年が経過していました。
そして15年後、
代襲相続によって相続人は増え、
手続きは複雑になっていました。
それでも、
戸籍を集め、
話し合いを重ね、
遺産分割協議書を作成し、
相続登記を完了させたことで、
実家は新しい所有者へ引き継がれていきました。
もし今、
父名義や母名義のままになっている不動産があるなら、
一度確認してみてください。
遺産分割協議書はありますか。
相続登記は終わっていますか。
空き家問題の多くは、
実はそこから始まっているのかもしれません。
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