こんにちは。
街歩き歴8年。名古屋市の住宅街を歩きながら、空き家と地域のこれからを考えている「街歩き空き家マイスター」、ふどうさんのMAGOの保木です。
春の陽気を感じながら、今日は名古屋市緑区の街を歩いています。
街路樹の桜が咲き、庭先ではハクモクレンも満開です。
上を見上げれば華やかな花が目に入り、足元ではオドリコソウやカタバミが、小さく春の訪れを知らせています。
そんな街を歩いていると、ふと気になる家があります。
立地は悪くない。
庭には、以前住んでいた方が大切に育てたと思われる木が残っている。
建物も、すぐに倒れそうな状態ではない。
それでも、雨戸は閉じたままです。
「こんなに良い場所にある家が、なぜ何年も使われていないのだろう」
街歩きを続けていると、そのように感じる空き家に何度も出会います。
令和5年住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%となりました。
名古屋市でも空き家は約17万3,000戸、空き家率は13.2%です。
ただし、この数字には賃貸用や売却用の空き家なども含まれます。すべてが管理されずに放置された戸建住宅という意味ではありません。
私は、空き家そのものが悪いとは考えていません。
住宅として再利用できる家。
リノベーションで生まれ変わる家。
店舗や事務所として使える家。
建物を残さなくても、土地として次の暮らしにつながる家。
空き家には、まだ役割が残っていることがあります。
🟨 空き家が「負動産」になるかどうかは、古いか新しいかだけでは決まりません。状態や権利を確認しないまま時間が過ぎ、所有者が選択肢を失っていくことが大きな問題です。
この記事では、空き家の利活用が進まない理由、解体前に確認したいこと、売却・賃貸・保有の比較、認知症と不動産処分の問題、相談先の選び方について、名古屋の現場で感じることを交えながらお話しします。
空き家問題の本質は「建物」だけでなく「意思決定」にある
空き家を見た人は、
「古いから売れないのでは」
「価値がないから放置されているのでは」
と考えるかもしれません。
しかし、実際の相談では、建物より先に人の問題があります。
親が苦労して建てた家だから、簡単には手放せない。
思い出を処分するようで、片付けられない。
兄弟姉妹の意見がまとまらない。
所有者本人の判断能力が低下している。
相続登記が終わらず、誰が動くのか決まっていない。
売却、賃貸、解体のどれがよいか分からない。
つまり、空き家が残る理由は「需要がないから」とは限りません。
家はある。価値もある。しかし、決める人と進め方が定まっていない。
この状態が長く続くことで、建物の劣化や家族の負担が増えていきます。
空き家の利活用が進まない7つの理由
1.思い出が詰まった実家を手放せない
空き家の所有者様から、よく聞く言葉があります。
「売った方がよいことは分かっています。でも、気持ちが追いつきません」
実家は単なる建物ではありません。
家族で囲んだ食卓。
柱についた子どもの身長の印。
親が手入れしていた庭。
何気ない日常の記憶が残っています。
売却をためらうことは、判断力がないからではありません。家族との時間を大切にしているからこそ、決められない場合があります。
だからこそ、最初から「売るか、売らないか」を迫るのではなく、何を残したいのかを整理します。
写真を残す。
家財の一部を引き継ぐ。
庭木について買主へ相談する。
家の記録を家族で共有してから売却する。
不動産を手放しても、思い出まで失うわけではありません。
2.「古い家は解体しないと売れない」と思い込んでいる
「解体費用を用意できないので、売ることもできません」
この相談も少なくありません。
しかし、古い家だからといって、売主様が先に解体しなければ売れないとは限りません。
- 古家付き土地として売却する
- 買主が建物を利用・改修する
- 買主側で解体する条件にする
- 売買代金や引渡条件の中で解体費を調整する
- 不動産会社による現況買取りを比較する
このような方法があります。
先に解体すれば土地の形を確認しやすくなり、販売しやすくなる物件もあります。
一方で、接道や再建築の条件を調べずに解体すると、建物を使い続ける選択肢を失う場合があります。解体後は、土地の固定資産税等に関する住宅用地特例が適用されなくなる可能性もあります。
🟥 「古いから、とりあえず解体」は避けたい判断です。建物、道路、境界、税負担、売却方法を確認してから決める必要があります。
3.相続人同士の意見がまとまらない
兄は実家を残したい。
姉は賃貸にしたい。
妹は管理できないため売却したい。
どの考えにも理由があります。
不動産は預貯金のように簡単に分けられません。共有名義にした後、一人は売りたい、一人は残したいとなれば、不動産全体の処分が難しくなることがあります。
話し合うときは、結論より先に次の内容を全員で確認します。
- 現在の登記名義と持分
- 誰が利用しているか
- 税金・保険・修繕・管理の負担
- 査定価格と必要経費
- 売却・賃貸・保有それぞれの期間と手取り
- 次の相続が起きた場合の影響
感情と数字を分けて整理することで、話し合える状態をつくります。
4.遠方に住み、管理を続けられない
空き家の管理には、想像以上に手間がかかります。
- 郵便物の回収
- 換気と通水
- 庭木や雑草の管理
- 雨漏りや外壁の確認
- 台風後の点検
- 防犯対策
- 近隣からの連絡対応
月に一度訪れるだけでも、交通費と時間がかかります。
最初は管理できていても、仕事、育児、介護、自身の高齢化によって訪問頻度が下がることがあります。
売却を決めていない段階でも、管理会社への委託、近隣連絡先の整理、火災保険の確認、緊急時の対応者などを決めておくことが大切です。
5.価値があるため、今すぐ動く必要を感じない
名古屋市内では、
「土地として売れることは分かっているので、急いでいません」
という所有者様もいます。
これは不合理な判断とは限りません。
立地や資産計画によっては、保有を続ける選択もあります。
ただし、不動産の価値と「動かしやすさ」は別です。
建物が劣化する。
所有者が高齢になる。
判断能力が変化する。
相続が重なり、共有者が増える。
境界や越境について事情を知る人がいなくなる。
今なら売れる不動産でも、数年後には意思決定に時間がかかる可能性があります。
🟨 保有すること自体が問題なのではありません。「いつ、誰が、どの条件になったら見直すか」を決めずに保有することが問題を先送りさせます。
6.所有者の判断能力が低下し、不動産を動かせない
父親が亡くなり、母親が実家を相続する。
その後、母親が施設へ入居し、実家が空き家になる。
子どもは介護費用に充てるため売却したい。
しかし、母親が売買契約の内容を理解し、意思を示せる状態なのかが問題になる。
このような相談があります。
不動産の所有者は母親です。子どもだからという理由だけで、代理して売却できるわけではありません。
ただし、「認知症と診断されたら、直ちに一切の契約ができない」と一律に決まるわけでもありません。必要な判断能力があるかどうかは、契約時の本人の状態や取引内容を踏まえて個別に確認されます。
本人による意思確認が難しい場合は、成年後見制度などを検討することがあります。成年被後見人の居住用不動産を処分する場合、家庭裁判所の許可が必要になることがあります。
7.最初の相談先が分からない
「不動産会社へ行けば、すぐ売るよう勧められそうです」
「解体業者、役所、司法書士のどこへ相談すればよいのでしょうか」
空き家には、不動産、相続、登記、税金、建築、家財、家族関係など複数の問題が重なります。
一つの専門家だけで、すべてを判断できるわけではありません。
そのため、最初の相談先には「すべてを自社で解決する人」ではなく、問題を分け、必要な専門家へつなげられる人を選ぶことが大切です。
放置すれば、すぐ「特定空家」になるわけではない
空き家について、
「誰も住んでいないだけで、すぐ特定空家にされるのですか」
と不安に思う方がいます。
単に空き家であることだけで、直ちに特定空家等になるわけではありません。
一方、適切な管理がされず、そのまま放置すれば特定空家等になるおそれがある空き家は「管理不全空家等」として、市町村による指導や勧告の対象になる場合があります。
管理不全空家等または特定空家等として勧告を受けた敷地は、固定資産税等の住宅用地特例を受けられなくなる可能性があります。
重要なのは、指定を恐れることではありません。
屋根や外壁の破損。
庭木の越境。
害虫やごみ。
不審者の侵入。
こうした問題が小さいうちに管理し、近隣や行政から連絡があった場合は放置せず対応することです。
売却・賃貸・保有・解体|4つの選択肢を比較する
空き家の出口は、売却だけではありません。
ただし、どの方法にも条件と負担があります。
| 選択肢 | 向いている可能性 | 主な確認事項 |
|---|---|---|
| 現況・古家付きで売却 | 先に大きな費用をかけたくない | 建物状態、契約条件、残置物、買主層 |
| 修繕・リノベーション後に売却 | 改修費を価格へ反映できる需要がある | 工事費、回収可能性、工期、保証 |
| 賃貸・事業利用 | 継続需要があり、管理を続けられる | 改修費、賃料、空室、用途、管理、収支 |
| 解体して土地売却 | 建物利用が難しく、土地需要がある | 解体費、接道、境界、税負担、売却時期 |
| 保有を続ける | 将来の利用計画と管理体制がある | 年間費用、管理者、見直し期限、次の相続 |
| 不動産会社による買取り | 時間・確実性・負担軽減を優先 | 仲介との価格差、免除される負担、契約条件 |
売却価格だけで比べるのではなく、最終手取り、必要な自己資金、売却までの期間、管理負担、契約上の責任を並べます。
解体を決める前に確認したい8項目
- 前面道路は建築基準法上の道路か
- 再建築できるか、接道条件を満たすか
- 境界や越境に問題はないか
- 建物を利用したい買主がいる可能性はないか
- 解体車両や重機が進入できるか
- 解体後の固定資産税等はどう変わるか
- 解体費を含めた最終手取りはいくらか
- 補助制度や税の特例に期限・要件はないか
売却のために直接必要となった解体費が、譲渡所得の計算上、譲渡費用となる場合もあります。ただし、目的や契約との関係などにより扱いが異なるため、税理士や税務署へ確認してください。
また、相続した空き家の売却では、一定の要件を満たす場合に譲渡所得から最高3,000万円を控除する特例があります。建築時期、被相続人の居住状況、売却時期、耐震性、譲渡価格などの条件があるため、「空き家なら誰でも利用できる制度」ではありません。
認知症になる前に考えられる準備
将来への準備には複数の方法があります。
家族で方針を話し合う
まず必要なのは制度の契約ではなく、本人の希望を聞くことです。
- 施設へ入居したら自宅をどうしたいか
- 売却代金を介護費用へ使う考えがあるか
- 家財や仏壇を誰へ託すか
- 誰に管理を任せたいか
- 家を残したい期間はあるか
委任や代理権を検討する
本人に判断能力があるうちに、管理に関する委任を検討できる場合があります。ただし、一般的な委任状があれば、将来どの状態でも不動産を自由に売れるという意味ではありません。
任意後見制度
本人が十分な判断能力を有するうちに、将来の後見人候補と契約しておく制度です。実際に判断能力が不十分となり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから効力が生じます。
契約内容や監督人の関与があるため、希望する不動産処分にどう対応できるかを事前に確認します。
家族信託・民事信託
財産の所有者が、信頼できる家族などへ財産の管理・処分を託す方法です。適切に設計されていれば、将来の財産管理に役立つ可能性があります。
ただし、信託契約の対象、受託者の権限、不動産登記、融資、税務、受託者死亡時の対応などを設計する必要があります。
🟥 家族信託は、認知症になった後から自由に作れる万能な制度ではありません。本人が契約内容を理解できるうちに、司法書士・弁護士・税理士などへ相談して設計する必要があります。
法定後見制度
すでに判断能力が不十分な場合に、家庭裁判所へ申立てを行い、成年後見人等による支援を受ける制度です。
後見人は家族の希望だけでなく、本人の利益を基準に財産を管理します。必ず家族が選任されるとは限らず、申立て後に都合だけで制度をやめられるものでもありません。
不動産売却だけを目的に制度利用を決めるのではなく、本人の生活と継続的な財産管理を含めて検討します。
空き家問題は誰に相談すればよいのか
| 困っていること | 主な相談先 |
|---|---|
| 売却価格、買主、販売方法 | 不動産会社 |
| 相続登記、所有権移転登記 | 司法書士 |
| 親族間の対立、後見、法的交渉 | 弁護士 |
| 譲渡所得、相続税、贈与税 | 税理士・税務署 |
| 境界、測量、分筆 | 土地家屋調査士 |
| 建物の安全性、改修、用途変更 | 建築士・建築会社 |
| 管理不全、補助制度、地域の相談窓口 | 市区町村 |
| 残置物、遺品整理 | 許可や契約内容を確認した事業者 |
相談先を増やせば解決するわけではありません。
誰に、何を判断してもらうのかを分けることが大切です。
空き家を「負動産」にしないための最初の30日
すぐに売却を決める必要はありません。
まず、次の順番で現状を確認してみてください。
1週目|権利を確認する
登記事項証明書、固定資産税の通知、遺言書、遺産分割協議書などを集めます。
2週目|現地を見る
屋根、外壁、雨漏り、庭木、郵便物、臭い、設備、残置物、近隣への影響を確認します。
3週目|年間負担を出す
固定資産税、保険、光熱費、管理、草刈り、修繕、交通費を一覧にします。
4週目|選択肢を比較する
現況売却、古家付き土地、解体後売却、買取り、賃貸、保有について、価格だけでなく費用・期間・リスクを比較します。
ここまで整理すると、家族との話し合いも具体的になります。
🟩 空き家問題の第一歩は、売る決断ではありません。誰が所有し、どのような状態で、毎年いくら負担し、どんな出口があるのかを知ることです。
まとめ|空き家は「処分するもの」ではなく、次の役割を考える不動産
街を歩いていると、長く閉ざされた家を見かけます。
その一軒一軒に、誰かの暮らしがありました。
だからこそ、空き家を数字だけで見て、
「古いから価値がない」
「危険だから壊すしかない」
と決めるべきではありません。
一方で、思い出があることを理由に、何も決めないまま建物を傷ませることが、家を大切にすることとも限りません。
空き家を「負動産」にしないために必要なのは、根拠なく高い価値を期待することでも、慌てて処分することでもありません。
現在の状態を確認する。
家族の希望を聞く。
法律・税金・建物の問題を分ける。
売却、活用、保有に必要な費用と時間を比べる。
そして、選択肢があるうちに方針を決める。
私は街歩きをしながら、空き家を見るたびに考えます。
この家は、まだ住まいとして使えるのではないか。
建物を残したい人へ届いていないだけではないか。
土地として、次の家族の暮らしにつなげられないか。
空き家問題の解決は、必ずしも建物を残すことではありません。
その不動産と家族の関係を整理し、次の人へつながる状態をつくることです。
名古屋市で空き家の売却・活用に迷っている方へ
ふどうさんのMAGOは、名古屋市南区を拠点に、空き家、相続不動産、共有名義、再建築が難しい土地、古家付き土地などの相談をお受けしています。
次のような段階でも構いません。
- 売るか残すか、家族で決められていない
- 建物を解体すべきか分からない
- 相続登記が済んでいるか確認できていない
- 親が施設へ入居し、実家が空き家になった
- 所有者の判断能力について不安がある
- 遠方に住んでおり管理できない
- 賃貸、仲介、買取りのどれがよいか分からない
- 他社から「古いから売れない」と言われた
最初から売却を前提にする必要はありません。
現地、道路、境界、建物、登記、管理費用、家族の希望を確認し、仲介、買取り、古家付き売却、解体、活用、継続保有を比較します。
「何をすればよいか分からない」という段階こそ、現在地を一緒に整理してみませんか。
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※本記事は令和8年9月時点の法令・公表情報をもとに作成しています。


