今回、春の陽気を感じながら歩いたのは、名古屋市緑区です。
昔からの住宅地。
新しく開発された街並み。
細い道路の奥に残る古い住宅。
丘陵地に建つ高低差のある家。
同じ緑区の中でも、一本道路を入るだけで街の表情は大きく変わります。
8年間、名古屋市内を中心に歩いていると、長期間使われていない家や、庭木が伸びた家、雨戸が閉じたままの家を見かけます。
一方で、古い建物を上手に改修し、新しい家族が暮らしている住宅や、店舗・事務所として再生された建物に出会うこともあります。
私は、空き家にも春の草花と同じように、まだ表に現れていない可能性が残っていると考えています。
空き家の未来は、築年数だけでは決まりません。
立地。
道路。
権利関係。
建物の状態。
地域の需要。
そして、所有者様とご家族の事情。
それらを一つずつ確認することで、売却や活用への道が見えてくることがあります。
この記事では、名古屋市で空き家の売却や活用を考えている方に向けて、最低限知っておきたい基礎知識と、現場で感じてきた空き家問題の本質をお伝えします。

空き家は本当に「負動産」なのでしょうか
人口減少、高齢化、相続などを背景に、空き家問題は全国的な社会課題となっています。
テレビやインターネットでは、
- 管理されていない危険な空き家
- 倒壊や草木の繁茂が心配される家
- 買い手が見つからない不動産
- 固定資産税や管理費だけがかかる家
- 相続人同士で話がまとまらない家
といった、空き家に関するネガティブな情報を目にすることが増えました。
確かに、空き家を長期間放置すれば、建物の劣化が進みます。
雨漏り。
湿気。
害虫。
庭木の越境。
外壁や瓦の落下。
不法侵入や放火への不安。
近隣からの苦情。
誰も住んでいなくても、所有者としての責任や費用がなくなるわけではありません。
空家法に基づき「管理不全空家」や「特定空家」について勧告を受けた場合、敷地に適用されていた固定資産税等の住宅用地特例から除外されることもあります。
しかし私は、8年間の街歩きと空き家売却の実務を通じて、すべての空き家を一律に「負動産」と呼ぶことには違和感を持っています。
長年、家族が暮らした場所。
子どもたちが育った場所。
親が働きながら住宅ローンを返してきた場所。
地域の歴史を刻んできた場所。
そこには、所有者様自身がまだ気付いていない価値が残されていることがあります。
建物をそのまま活かせるかもしれません。
古家付き土地として売却できるかもしれません。
投資家やリフォーム希望者であれば、別の見方をするかもしれません。
隣地と一体で利用することで、新しい価値が生まれる可能性もあります。
空き家は、何もしなければ負担が増えやすい不動産です。
しかし、現状を調べ、適切な順序で問題を整理すれば、次の所有者へ引き継ぐことのできる大切な資産にもなります。
🟨 空き家が「負動産」になるかどうかは、建物の古さだけで決まりません。問題を知らないまま放置し、選択肢が減っていくことで、初めて負担の大きい不動産へ変わっていきます。
人が住まなくなると、家には何が起きるのか
空き家へ入った瞬間、独特の「重たい空気」を感じることがあります。
これは霊的な話ではありません。
長期間窓が開けられていないことによる空気の滞留。
湿気。
カビ。
埃。
排水口からの臭い。
日光不足。
室内外の温度差。
こうした物理的な変化が重なり、人の五感へ「何となく嫌な感じ」として伝わります。
築50年でも、定期的に掃除や換気が行われている家は、驚くほど良好な状態を保っていることがあります。
反対に、築20年程度でも、長期間放置された家は傷みが進んでいることがあります。
人が住んでいれば、自然に水を流します。
窓を開けます。
小さな雨漏りや設備の異常に気付きます。
庭木を切ります。
必要な修繕をします。
空き家になると、これらの日常的な管理が一斉に止まります。
家は、ある日突然壊れるとは限りません。
小さな異常が発見されないまま積み重なり、気付いたときには修繕費が大きくなっているのです。
空き家の老朽化を防ぐために大切なのは、特別な方法ではありません。
月に一度でも訪れる。
郵便物を回収する。
窓を開ける。
水を流す。
庭木や雑草を確認する。
台風や大雨の後に外観を見る。
それだけでも、異常の早期発見につながります。
名古屋市では、遠方在住や高齢などの理由で十分に管理できない方を対象に、ふるさと納税の返礼品として、写真付きで空き家の状況を報告する見回りサービスも案内しています。
🟥 「誰も住んでいないから、しばらく何もしなくても大丈夫」という考え方が、空き家の選択肢を最も早く減らしてしまいます。

空き家問題は「売る・壊す」だけでは解決できません
空き家の相談では、次のようなお悩みをよくお聞きします。
「相続したものの、何から始めればよいか分からない」
「家財が残っている状態でも売れるのでしょうか」
「建物が古いため、売却できないと思っています」
「兄弟との共有名義なので話が進みません」
「解体してから売った方がよいのでしょうか」
空き家の売却は、単に買主を探すだけでは進まないことがあります。
実際には、次のような問題が複雑に関係します。
- 相続登記
- 遺産分割や共有名義
- 境界や越境物
- 接道状況と再建築の可否
- 建物の老朽化
- 雨漏りやシロアリ被害
- 擁壁や高低差
- 家財・残置物の整理
- 固定資産税や譲渡所得税
- 解体費用とアスベスト
- 近隣所有者との調整
- 所有者様やご家族の気持ち
そのため、最初から「売る」「貸す」「壊す」と決めるのではなく、まず現在の状態を整理することが大切です。
空き家売却とは、単なる不動産の処分ではありません。
家族の歴史を整理し、将来の負担を次の世代へ残さないための選択でもあるのです。
1.名古屋市の空き家売却は、どこに相談すればよいのか
空き家を相続した方から、よくいただく質問があります。
「空き家を売却したい場合、最初にどこへ相談すればよいのでしょうか」
売却を検討する場合、不動産会社への相談は重要です。
ただし、空き家には相続、登記、税金、境界、建物の状態など、さまざまな問題が関係します。
最初から売却だけを前提にするのではなく、複数の選択肢を比較できる相談相手を選ぶことが大切です。
空き家に詳しい不動産会社を選ぶ
不動産会社には、それぞれ得意分野があります。
賃貸仲介。
新築住宅の販売。
マンション売買。
投資用不動産。
土地活用。
どの不動産会社も同じ仕事をしているように見えますが、実務経験や持っている買主層は異なります。
空き家や築古住宅の売却では、一般的な住宅売却とは違う調査や説明が必要になります。
私が現場で確認するのは、建物の見た目だけではありません。
前面道路の幅。
接道している長さ。
道路の法的な種類。
境界標。
隣地からの越境。
擁壁。
水路。
電柱。
上下水道。
車や重機が入れるか。
周辺で建て替えが行われているか。
地図や登記事項証明書だけでは分からないことが、現地を歩くことで見えてきます。
空き家を相談する不動産会社は、次のような点を基準に選ぶとよいでしょう。
- 空き家や築古住宅の取扱経験がある
- 相続不動産や共有名義の相談に対応できる
- 仲介と買取の両方を比較できる
- 道路、境界、越境などを調査してくれる
- 建物を残す場合と解体する場合を比較してくれる
- 司法書士、土地家屋調査士、税理士などと連携できる
- 良い点だけでなく、売却上のリスクも説明する
- 査定価格だけでなく、想定買主と販売方法を説明できる
査定価格の高さだけで不動産会社を決めると、販売開始後に値下げを繰り返したり、契約直前に問題が発覚したりする場合があります。
大切なのは、
「いくらで売れると言われたか」
だけではありません。
「なぜ、その価格なのか」
「誰が買うと考えているのか」
「どのような順序で問題を解決するのか」
まで確認することです。
名古屋市の相談窓口も利用する
名古屋市では、「住まいの窓口」で住まいや空き家利活用に関する情報提供と相談受付を行っています。また、不動産、相続登記、法律、税金などについて相談できる専門窓口や、複数分野の専門家へ相談できる空き家総合相談会も案内されています。
ただし、自治体は個別の不動産売買を仲介する立場ではありません。
行政から制度や地域情報を確認する。
不動産会社から市場性と売却方法の説明を受ける。
司法書士へ登記を相談する。
税理士や税務署へ税金を確認する。
土地家屋調査士へ境界や測量を相談する。
建築士や建築会社へ建築・構造上の問題を確認する。
問題に合わせて専門家を使い分けることが大切です。

🟩 重要なのは、最初にどこへ相談したかではありません。相談相手が、分からないことを曖昧にせず、必要な専門家へつないでくれるかどうかです。
2.空き家を売却する3つの基本的な方法
空き家の主な売却方法は、次の3つです。
- 中古住宅として売却する
- 古家付き土地として売却する
- 建物を解体し、更地として売却する
最適な方法は、築年数だけでは判断できません。
建物の状態、土地の形、道路条件、地域需要、解体費用、税負担、売主様の希望を総合的に確認する必要があります。
① 中古住宅として売却する
建物を住宅として評価し、土地と建物を一緒に売却する方法です。
次のような空き家は、中古住宅として売却できる可能性があります。
- 維持管理の状態が比較的よい
- 雨漏りや大きな傾きが確認されていない
- 駅や生活施設に近い
- リフォーム需要がある
- 間取りや意匠に特徴がある
- 新築より取得費を抑えたい買主が見込める
築年数が古くても、建物の状態や立地によっては「自分好みに改修できる家」として評価されることがあります。
一方、雨漏り、シロアリ、傾き、設備故障などがある場合は、確認できた内容を正確に伝える必要があります。
売却前に高額なリフォームを行っても、工事費以上に価格が上がるとは限りません。
リフォーム済みを好む買主もいれば、自分で工事内容を決めたい買主もいます。
先に工事を始めるのではなく、現況販売との手取り比較を行うことが大切です。
② 古家付き土地として売却する
建物を残したまま、土地の価値を中心に売却する方法です。
建物の築年数が経過し、一般的な中古住宅として評価しにくい場合でも、すぐに解体する必要はありません。
古家付き土地には、次のような利点があります。
- 売主が先に解体費を負担しなくてよい
- 建物を利用したい買主も検討できる
- 買主が建築計画に合わせて解体時期を決められる
- 解体後に再建築できないリスクを避けられる
- 売却まで住宅用地特例が続く可能性がある
ただし、古家付き土地と表示すれば、建物について自動的に責任を負わなくなるわけではありません。
契約不適合責任を限定または免責とする場合は、売主と買主が条件を確認し、売買契約書へ明確に記載する必要があります。
また、売主様が把握している不具合を説明しなかった場合、免責特約があっても問題になる可能性があります。
「古いので分かりません」で終わらせず、分かることと分からないことを整理して伝えることが大切です。
③ 建物を解体して更地で売却する
建物の老朽化が著しく、そのままでは購入希望者が検討しにくい場合は、解体して更地にする方法があります。
更地売却には、次のような利点があります。
- 土地の形状を確認しやすい
- 新築計画を立てやすい
- 老朽建物への不安を減らせる
- 建物管理の負担をなくせる
- 外観上の印象を改善できる
ただし、
🟥 「古い家だから解体すればよい」という判断は危険です。
解体前には、少なくとも次の点を確認します。
- 解体後に再建築できるか
- 解体費はいくらか
- 重機やトラックが進入できるか
- アスベスト含有建材の可能性
- 地中埋設物や井戸の可能性
- 解体後の固定資産税等
- 建物を利用したい買主の可能性
- 解体費を価格へ上乗せできるか
- 税制特例へ影響しないか
売主様が300万円をかけて解体しても、売却価格が300万円以上上がるとは限りません。
買主が建売業者であれば、自社の解体業者を利用した方が安い場合もあります。
また、通路が狭い土地や連棟住宅では、一般的な戸建てより解体費が高くなることがあります。
解体は元に戻せません。

だからこそ、売却方法を比較してから判断する必要があります。
3.仲介・買取・賃貸活用は、何が違うのか
空き家の出口は、建物を残すか壊すかだけではありません。
仲介で市場へ売る。
不動産会社へ買い取ってもらう。
賃貸住宅として活用する。
隣地所有者へ提案する。
地域の事業者へ貸す。
複数の方法があります。
仲介売却
不動産会社が市場で購入希望者を探す方法です。
比較的高い価格を目指せる可能性がありますが、買主が現れるまで期間がかかることがあります。
内覧対応、家財撤去、測量、修繕などが必要になる場合もあります。
不動産買取
不動産会社や買取事業者が直接購入する方法です。
仲介より価格が低くなる傾向はありますが、
- 売却時期を決めやすい
- 現況のまま相談しやすい
- 残置物を残せる場合がある
- 契約条件を整理しやすい
- 短期間で現金化できる
という利点があります。
重要なのは、「買取だから損」「仲介だから正解」と単純に判断しないことです。
買取価格が低くても、解体、測量、残置物処分、契約後の責任などを買主が負担するのであれば、最終的な手取りや安心感で有利になることがあります。
反対に、市場で十分売れる物件を、比較せず最初から買取へ出せば、本来得られた売却利益を失う可能性があります。
賃貸・その他の活用
建物状態や立地によっては、賃貸住宅、事務所、アトリエ、倉庫、地域交流拠点などとして活用できる場合があります。
ただし、「貸せば収入になる」と簡単には判断できません。
修繕費。
設備交換。
耐震性。
消防・建築上の条件。
入居者募集。
管理費。
将来の退去や原状回復。
事業用途への変更。
これらを確認する必要があります。
空き家活用は魅力的な言葉ですが、活用を続けるには運営する人と費用が必要です。
売却より活用が向いているのか、それとも管理負担を手放す方がよいのか。
所有者様の年齢、居住地、資金、家族の協力も含めて考える必要があります。
4.名古屋市で空き家を売却する前に確認したいこと
境界標・越境物・測量
古くから所有されている土地では、境界標が見つからなかったり、過去の測量図と現況が一致しなかったりすることがあります。
現地では、次のような問題が見つかります。
- 隣地の塀や建物の軒が越境している
- 本件建物の雨樋が隣地へ出ている
- 樹木の枝や根が境界を越えている
- ブロック塀の所有者が分からない
- 登記簿面積と実測面積に差がある
- 道路との境界が明確でない
- 配管が他人地を通っている
確定測量を行う場合は、土地家屋調査士へ依頼し、隣接土地所有者や道路管理者などとの境界確認を進めます。
しかし、隣地所有者が亡くなっている。
相続人の所在が分からない。
境界について意見が一致しない。
このような場合は、測量が長期化することがあります。
売買契約では、
- 測量費用を誰が負担するか
- いつまでに測量するか
- 完了しない場合の対応
- 面積差を精算するか
- 越境物を撤去するか
- 将来撤去の覚書を取得するか
などを明確にする必要があります。
接道と再建築の可否
名古屋市内にも、狭い道路、路地状敷地、袋小路、古い長屋が残る地域があります。
一般的には、建築物の敷地は建築基準法上の道路へ2メートル以上接する必要があります。
しかし、道路のように見える通路が、建築基準法上の道路とは限りません。
見た目の幅が2メートルあっても、敷地境界を確認すると足りない場合があります。
私道を通行できても、建築上の接道条件を満たすとは限りません。
また、接道条件を満たしていても、建物用途や規模、地域の条例などによって追加条件が生じる場合があります。
現地では、道路幅だけでなく、
- 道路種別
- 接道長
- セットバック
- 私道持分
- 通行・掘削の権利
- 上下水道管の経路
- 車両と工事重機の進入
- 道路と敷地の高低差
を確認します。
再建築できるか確認しないまま建物を解体すると、かえって売却しにくくなる可能性があります。
家財・遺品・残置物
空き家を動かせなくする大きな理由の一つが、家財や遺品です。
他人から見れば古い茶碗でも、所有者様にとっては母親が毎日使っていた大切な品かもしれません。
押し入れからアルバムが出てくる。
机の引き出しに父親の万年筆が残っている。
柱に子どもの身長を記した傷がある。
片付けが進まないのは、怠けているからではありません。
一つ処分するたびに、家族との時間へ触れるからです。
家財整理には、次の方法があります。
- 家族で少しずつ整理する
- 自治体の家庭ごみ・粗大ごみ収集を利用する
- リサイクルショップへ相談する
- 家財整理業者へ依頼する
- 残置物を含めて買い取る会社へ相談する
すべて片付けてから査定を依頼する必要はありません。
先に費用をかける前に、現況のまま売る場合、整理後に売る場合、買取へ出す場合を比較しましょう。
5.相続登記・遺産分割・税金を確認する
相続登記が済んでいるか
亡くなった方の名義のままでは、原則として、その不動産を買主名義へ移転できません。
売却するためには、相続人を確認し、必要な相続登記を行う必要があります。
相続登記の申請は、2024年4月1日から義務化されています。義務化前に発生した相続で、現在も登記がされていない不動産も対象となり得ます。不動産を相続したことを知った日から3年以内に申請することが基本です。
長期間放置すると、相続人の一人が亡くなり、次の相続が発生することがあります。
兄弟2人で済むはずだった話し合いに、甥や姪、その子どもたちまで加わることもあります。
相続関係が複雑になるほど、戸籍収集、意思確認、遺産分割、登記に時間がかかります。
共有名義は将来の管理まで考える
遺言書がなく、相続人が複数いる場合は、誰が不動産を取得するかを話し合う遺産分割協議が必要になることがあります。
不動産を共有名義にすることもできますが、将来、不動産全体を売却するには、原則として共有者全員の合意が必要です。
共有者の一人は売りたい。
もう一人は残したい。
管理費を負担する人と、何もしない人がいる。
時間がたつほど感情的な対立が大きくなることがあります。
「とりあえず法定相続分で共有にする」のではなく、将来の管理、費用、活用、売却まで考えて名義を決めることが大切です。
空き家売却の税制特例
相続した空き家を売却する場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。ただし、相続人が3人以上の場合の控除上限、建物の要件、売却期限、譲渡価格など細かな条件があります。現行制度では、対象となる譲渡期間は2027年12月31日までと案内されています。
市町村から「被相続人居住用家屋等確認書」が交付されても、それだけで特例の適用が確定するわけではありません。
確定申告と税務上の要件確認が必要です。
解体時期や売買契約の内容が特例に関係する場合もあるため、
🟥 「売ってから税理士へ相談する」のではなく、売却方法や解体時期を決める前に税務署または税理士へ確認することが大切です。
6.名古屋市緑区・Aさんの空き家売却体験

ここからは、名古屋市緑区にあるご実家を売却したAさんの事例をご紹介します。
個人や物件を特定できないよう、一部の表現や経緯を調整しています。
約60年間、家族を見守った実家
Aさんの弟様が亡くなられたのは2020年のことでした。
弟様は独身で、ご両親もすでに他界されていたため、Aさんとお姉様が相続人となりました。
弟様が暮らしていたのは、名古屋市緑区にある一戸建てです。
約50坪の土地に建つ、築約60年の住宅でした。
Aさんにとって、この家は単なる不動産ではありません。
ご両親が苦労して建てた家。
兄弟姉妹が生まれ育った家。
家族で食事をした居間。
母親が料理を作っていた台所。
父親が手入れしていた庭。
家そのものが、家族の記憶でした。
売却を決めた理由は、次の世代へ問題を残さないため
Aさんとお姉様は話し合いの末、ご実家を売却することを決めました。
理由の一つは、自分たちの子どもへ、空き家の管理や相続問題を残したくないという思いでした。
空き家を所有し続ければ、固定資産税だけでなく、
- 庭の草刈り
- 建物の換気
- 台風後の確認
- 防犯
- 修繕
- 近隣への配慮
といった継続的な負担が生じます。
売却は、思い出を捨てるための決断ではありませんでした。
家族が守ってきた家について、今の世代で責任を持って将来を決めるための選択でした。
第三者のサポートを受けて相続を整理
Aさんが最初に相談したのは、弟様がお世話になっていた地元の信用金庫でした。
第三者が間に入ったことで、相続や名義について冷静に話し合うことができました。
当初は、お姉様との共有名義も検討しました。
しかし、将来の管理や売却を考え、最終的にはAさんが不動産を取得し、相続登記を行ったうえで売却することになりました。
相続では、家族だからこそ話しにくいことがあります。
専門家や第三者が入ることは、家族の関係を守りながら問題を整理する方法の一つです。
築約60年の実家を古家付き土地として売却
相続登記の完了後、ご実家は古家付き土地として販売しました。
築年数だけを見れば、建物を解体する選択肢もありました。
しかし、先に解体するのではなく、
土地の形。
道路条件。
周辺需要。
解体費用。
建物を見たい買主の可能性。
これらを確認したうえで、建物を残して売却活動を進めました。
空き家売却では、「古い家だから価値がない」と決めつけないことが大切です。
建物を利用するのか。
リフォームするのか。
購入後に解体するのか。
その判断を買主へ委ねることで、検討できる人の幅が広がる場合があります。
最も大変だった家財整理と庭の管理
売却が決まった後、Aさんが特に苦労されたのが家財整理でした。
長年暮らした家には、生活用品だけでなく、家族の写真や思い出の品が数多く残されていました。
Aさんは何度も実家へ通い、家財や遺品を少しずつ整理し、庭の草刈りも続けました。
作業は簡単には進みませんでした。
アルバムを開けば手が止まる。
昔の手紙が出てくれば読み返す。
親が大切にしていた物を、ごみとして扱ってよいのか迷う。
それでも、ご家族で残すものと手放すものを一つずつ決めました。
そして迎えた引渡しの日。
ご両親が建て、弟様が守ってきた家を手放すことには、寂しさと罪悪感があったそうです。
それでもAさんは、これからの生活と子どもたちの将来を考え、この決断でよかったと話されました。
🟩 実家を売ることは、親との思い出を捨てることではありません。家族が守ってきた時間を整理し、次の世代へ負担ではなく記憶として残すための決断でもあります。
7.空き家を“負動産”にしないための7つの行動
① 売ると決める前に相談する
「売却を決めてから相談しよう」と考える必要はありません。
相談の目的は、契約することではなく、現状と選択肢を知ることです。
② 名義と相続人を確認する
登記事項証明書を取得し、現在の名義を確認します。
亡くなった方の名義であれば、戸籍や遺産分割の準備が必要です。
③ 現地を定期的に確認する
郵便物、雑草、雨漏り、瓦、外壁、害虫、設備などを確認します。
遠方の場合は管理サービスの利用も検討します。
④ 解体やリフォームを急がない
工事を行う前に、現況販売との価格差、工事費、税金、再建築条件を比較します。
⑤ 一社の査定額だけで判断しない
高い査定額より、その根拠と販売戦略を確認します。
空き家、再建築が難しい土地、旗竿地などは、会社によって評価が大きく異なることがあります。
⑥ 家族で優先順位を共有する
最高価格を目指すのか。
早期解決を優先するのか。
建物を残したいのか。
管理負担をなくしたいのか。
何を優先するかによって、最適な出口は変わります。
⑦ 最終手取りで比較する
売却価格だけでなく、
- 仲介手数料
- 解体費
- 残置物処分費
- 測量費
- 登記費用
- 修繕費
- 税金
- 売却までの管理費
- 契約後に負う責任
を差し引いて比較します。
🟨 空き家売却の成功とは、最も高い査定書を選ぶことではありません。価格、時間、費用、責任、気持ちを整理し、家族が納得できる出口を選ぶことです。

空き家問題の本質は、建物ではなく「決められない時間」
空き家が放置される理由を、所有者様の怠慢だけで説明することはできません。
親との思い出。
兄弟との関係。
処分することへの罪悪感。
売却後の後悔への不安。
誰が決断するのかという責任。
さまざまな感情が絡み合い、「今はまだ決めない」という状態が続きます。
空き家問題の本質は、古い建物が残っていることだけではありません。
人と家との関係が途切れ、誰も次の使い方を決められない時間が続くことです。
すぐに売却する必要はありません。
相続直後に気持ちの整理がつかないこともあります。
しかし、
今の名義は誰なのか。
建物はどのような状態なのか。
維持にはいくらかかるのか。
売却するとしたら、どのような方法があるのか。
何年後まで維持できるのか。
これだけは、早めに確認しておくことをおすすめします。
決断を先送りしてもよい場合はあります。
ただし、現実を知らないまま放置することと、状況を理解したうえで保有を選ぶことは、まったく違います。
まとめ|空き家の価値は、古さではなく「次の使い方」で決まる
空き家は、何もしなければ少しずつ傷みます。
固定資産税がかかります。
庭木は伸びます。
相続関係が複雑になることもあります。
しかし、古いから価値がないとは限りません。
中古住宅として住み継がれる家。
古家付き土地として引き継がれる家。
リフォームによって再生される家。
店舗や事務所として活用される家。
隣地と一体利用することで価値が生まれる土地。
解体され、新しい家族の住宅へ変わる土地。
空き家には、一つとして同じ答えがありません。
だからこそ大切なのは、最初から「売れない」「壊すしかない」と決めつけないことです。
まず現地を見る。
権利を確認する。
道路を調べる。
建物の状態を知る。
家族の希望を聞く。
費用と手取りを比較する。
そして、その空き家を必要としている人へ、正しい情報を届ける。
🟥 空き家を“負動産”にしてしまう最大の原因は、築年数ではありません。問題を知ることを先送りし、選択肢が減ってしまうことです。
🟩 空き家を資産として次の人へ引き継ぐ第一歩は、売却を決断することではありません。今の状態と、残されている選択肢を知ることです。
名古屋市の空き家売却・相続不動産のご相談
ふどうさんのMAGOは、名古屋市を中心に、空き家、相続不動産、築古住宅、旗竿地、再建築が難しい土地、共有不動産などの売却をお手伝いしています。
私は「街歩き空き家マイスター」として8年間、実際に街を歩き、道路や周辺環境、地域ごとの特徴を自分の目で確認してきました。
机上の査定額だけで判断するのではなく、
道路の反対側。
車両の進入経路。
接道。
境界。
越境。
高低差。
建物の状態。
近隣の建て替え状況。
地域の需要。
現地で何が起きているのかを確認し、その空き家に合った出口を考えることを大切にしています。
次のような段階でも構いません。
- まだ売却するか決めていない
- 家財や遺品が残っている
- 相続登記が終わっていない
- 兄弟で意見がまとまっていない
- 再建築できる土地か分からない
- 解体するべきか迷っている
- 他社で売却が難しいと言われた
- 提示された買取価格が適正か分からない
- 遠方に住んでいて管理できない
空き家を売ることだけを目的とするのではなく、仲介、買取、活用、管理、解体などの選択肢を整理し、所有者様とご家族にとって納得できる方法を一緒に考えます。
空き家を「負動産」にしてしまう前に、まずは現在の状況をお聞かせください。
対応エリア
名古屋市南区・港区・緑区・瑞穂区・熱田区・昭和区・天白区・中川区・中村区・中区・千種区・名東区・守山区をはじめ、名古屋市全域および愛知県内に対応しています。
※本記事は令和8年9月時点の法令・公表情報および実務経験をもとに作成しています。法律、税務、建築、登記上の取り扱いは、物件や相続の状況によって異なります。具体的な手続きについては、必要に応じて司法書士、弁護士、税理士、土地家屋調査士、建築士、行政機関などへご確認ください。
※本文の事例は、相談者様および物件を特定できないよう、時期、面積、会話、経緯などの一部を調整しています。


