~売れないと思っていたら売れた実例・相続人8人でも売却できた空き家~
「先生、これって本当に売れるんでしょうか?」
相談者様は、少し困ったような表情でそう話されました。
テーブルの上には古い登記簿謄本。
そして相続関係説明図には、ずらりと並ぶ相続人の名前。
人数は8人。
兄弟姉妹、その子どもたち、さらに県外在住者も含まれていました。
ご相談いただいたのは名古屋市内にある空き家でした。
築50年以上。
数年間誰も住んでいません。
雨戸は閉まったまま。
庭木は伸び放題。
近所からも「最近どうなっていますか?」と声がかかるようになっていました。
しかし問題は建物の老朽化ではありません。
最大の問題は「相続人が8人いる」ということでした。
空き家そのものより難しい「人の問題」
不動産売却の相談を受けていると感じることがあります。
実は不動産そのものに問題があるケースよりも、人間関係に問題があるケースの方がはるかに難しいのです。
今回の空き家もそうでした。
もともとの所有者であるご両親が亡くなり、その後、相続手続きが進まないまま年月が経過。
気が付けば相続人は8人になっていました。
名古屋市在住の方もいれば、
東京。
大阪。
福岡。
さらには海外在住の方までいました。
当然ながら全員が同じ考えではありません。
「売りたい人」と「放っておきたい人」
相続不動産でよくあるのが価値観の違いです。
ある人は、
「早く売って現金化したい」
と考えます。
一方で別の人は、
「親の思い出があるから残したい」
と言います。
また別の人は、
「正直、関わるのが面倒」
という場合もあります。
今回もまさにそうでした。
積極的に売却を希望する人。
反対する人。
連絡が取りづらい人。
何年も空き家の状態が続いていた理由がよく分かりました。
誰も悪くない
こうしたケースで私はいつも思います。
誰か一人が悪いわけではありません。
相続人が多くなればなるほど、それぞれに事情があります。
仕事。
家庭。
健康問題。
介護。
子育て。
人生の優先順位が違うのは当然です。
だからこそ、
「なぜ協力してくれないんだ」
ではなく、
「なぜ動けないのだろう」
という視点が大切になります。
まず行ったのは売却活動ではなかった
意外に思われるかもしれません。
しかし最初に行ったのは査定でも売却活動でもありませんでした。
相続人全員と状況を共有することでした。
現在の固定資産税。
建物の状態。
近隣への影響。
将来的なリスク。
管理費用。
これらを整理して説明しました。
すると、それまで関心が薄かった方々も少しずつ状況を理解し始めました。
空き家は時間が解決してくれない
空き家問題でよくある誤解があります。
「そのうち何とかなるだろう」
という考えです。
しかし現実は逆です。
時間が経てば経つほど問題は複雑になります。
建物は傷みます。
草木は伸びます。
近隣トラブルも発生します。
そして相続人はさらに増える可能性があります。
今回も数年放置されていましたが、あと10年経っていたらもっと大変になっていたでしょう。
現地調査で見えてきた意外な価値
空き家自体はかなり老朽化していました。
正直なところ建物の価値はほとんどありません。
しかし土地には魅力がありました。
・駅徒歩圏内
・商業施設が近い
・周辺環境が良好
・住宅需要が高いエリア
一般の方から見ると、
「古い空き家」
ですが、
不動産市場から見ると、
「魅力ある住宅用地」
だったのです。
買取だけが選択肢ではなかった
当初、相続人の皆様は業者買取を想定していました。
理由は単純です。
「こんな状態で一般の人は買わないだろう」
と思っていたからです。
しかし市場調査を進めると複数の購入層が見えてきました。
建売業者。
注文住宅を希望する個人。
近隣地主。
投資家。
同じ土地でも価値を感じる人は様々です。
購入希望者が現れた
販売開始後、問い合わせは予想以上に入りました。
中でも熱心だったのは子育て世代のご夫婦でした。
理由を聞いて驚きました。
「この地域で家を建てたいと思っていました」
ただそれだけでした。
売主からすると、
雨漏りがある。
古い。
管理できていない。
そんなマイナス面ばかりが目に入ります。
しかし買主は未来を見ています。
どんな家を建てようか。
子ども部屋はどうしようか。
庭は作れるだろうか。
見ている景色が違うのです。
全員の合意を得るまで
購入希望者が現れても、すぐ契約できるわけではありません。
相続人全員の同意が必要です。
8人全員です。
これが最も大変な作業でした。
説明資料を作成し、
電話をかけ、
郵送し、
質問に答え、
何度も調整を行いました。
しかし一人ひとり丁寧に説明することで、少しずつ理解を得ることができました。
契約の日
契約当日。
代表して来られた相続人の方がこんなことを話されました。
「正直、もう無理だと思っていました。」
「このままずっと空き家のままかと思っていました。」
「兄弟でも意見がまとまらなかったので。」
そして少し笑いながら、
「親父もやっと安心してくれると思います。」
と話されました。
売却できたのは空き家ではなく問題だった
私はいつも感じています。
売却できたのは不動産だけではありません。
その不動産に付随する問題そのものが解決したのです。
固定資産税の負担。
管理の負担。
相続人同士の悩み。
近隣への気遣い。
それらすべてが整理されました。
相続人が多いから売れないは間違い
相続相談の現場では、
「相続人が多いので無理ですよね」
という言葉をよく聞きます。
しかし実際には違います。
確かに難しくなります。
手続きも増えます。
時間もかかります。
しかし不可能ではありません。
問題なのは人数ではなく、誰も動かないことです。
一歩踏み出す人がいれば状況は変わります。
空き家問題は不動産の問題ではない
空き家問題というと建物の老朽化ばかり注目されます。
しかし現場で感じるのは違います。
本当に難しいのは人の問題です。
家族の思い出。
親への気持ち。
兄弟関係。
相続人それぞれの人生。
そこに寄り添わなければ本当の解決にはなりません。
まとめ
今回の空き家は築50年以上。
相続人は8人。
県外在住者も多数。
一見すると「売れない条件」が揃っていました。
しかし結果的には無事売却が成立し、相続人全員が前に進むことができました。
空き家を相続したとき、多くの方は建物の状態ばかり気にします。
けれど本当に大切なのは、「どうすれば関係者全員が納得できるか」を考えることです。
相続人が多い。
意見がまとまらない。
空き家が古い。
そんな理由で諦める必要はありません。
実際に現場では、「無理だと思っていた不動産」が売却できた事例を数多く見てきました。
親が残してくれた家。
そこには思い出があります。
だからこそ最後は、家族みんなが納得できる形で次の世代へバトンを渡していく。
それもまた、不動産売却の大切な役割なのだと思います。
空き家マイスターが見た現実。
売れなかったのは空き家ではありません。
誰も動けなかった時間でした。
そして、その時間が動き出した瞬間に、不動産もまた新しい持ち主のもとへ歩み始めたのです。
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