「亡くなった兄が住んでいた空き家を相続したくない」
「疎遠だった姉に借金があるかもしれない」
「遠方の不動産を管理することはできない」
親ではなく、兄弟姉妹の死亡によって相続人になることがあります。
特に、亡くなった兄弟姉妹に子どもがいない場合や、先順位の相続人が相続放棄した場合には、突然、兄弟姉妹へ相続の問題が及ぶことがあります。
そこで検討されるのが「相続放棄」です。
ただし、相続放棄には期限があり、空き家だけを選んで放棄することもできません。また、遺品や預貯金を処分した後では、相続放棄が認められない可能性もあります。
本記事では、兄弟姉妹が相続人になる順番、不動産の相続放棄を検討すべきケース、3か月の期限、相続放棄後の空き家の取り扱いについて解説します。
最初に確認|不動産だけを相続放棄することはできない
相続放棄について、最初に知っておきたい重要な点があります。
相続放棄では、
「空き家はいらないが、預貯金は受け取りたい」
「借金は引き継がず、価値のある土地だけ相続したい」
という選択はできません。
相続放棄をすると、原則として次の財産をすべて引き継がないことになります。
- 土地・建物
- 預貯金
- 株式などの有価証券
- 自動車
- 家財や貴金属
- 貸付金などの権利
- 借金
- 未払いの税金や医療費
- 住宅ローン
- 保証債務など
つまり、相続放棄は「不要な不動産だけを手放す手続き」ではなく、その兄弟姉妹の相続について、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないための手続きです。
そのため、相続放棄を決める前に、預貯金、借金、不動産の価値などを可能な範囲で調査する必要があります。
兄弟姉妹が相続人になるのはどのような場合か
兄弟姉妹は、常に相続人になるわけではありません。
亡くなった方の配偶者は原則として常に相続人となり、それ以外の親族には次の順位があります。
- 第1順位:子・孫などの直系卑属
- 第2順位:父母・祖父母などの直系尊属
- 第3順位:兄弟姉妹
亡くなった方に子どもがいない、または子どもなど第1順位の相続人全員が相続放棄し、さらに父母や祖父母など第2順位の相続人がいない、または全員が相続放棄した場合には、第3順位の兄弟姉妹が相続人になる可能性があります。
兄弟姉妹が相続人になる代表例
- 独身で子どものいない兄が亡くなった
- 子どものいない姉が亡くなり、両親もすでに亡くなっている
- 亡くなった弟の子どもが全員相続放棄した
- 先順位の親族が次々と相続放棄した
- 配偶者はいるが、子どもも存命の直系尊属もいない
配偶者がいる場合でも、子どもや直系尊属がいなければ、配偶者と兄弟姉妹が共同相続人になることがあります。
亡くなった兄弟姉妹に借金があると後から連絡が来ることもある
兄弟姉妹が長年疎遠だった場合、死亡したことや、自分が相続人になったことをすぐに知らないケースがあります。
例えば、先順位の相続人が相続放棄した後、債権者から届いた通知によって、初めて自分が相続人になったと知ることがあります。
通知の内容として考えられるのは、次のようなものです。
- 消費者金融や金融機関からの請求
- 住宅ローンの残債
- 未払いの家賃
- 税金や保険料の滞納
- 入院費・施設費・医療費
- クレジットカードの未払い
- 連帯保証債務
- 空き家に関する自治体からの通知
「自分は兄弟だから関係ない」と放置してしまうと、相続放棄の期限をめぐって問題になる可能性があります。
通知を受け取った場合は、相続関係と期限を早急に確認することが大切です。
兄弟姉妹の代わりに甥・姪が相続人になることもある
本来相続人となる兄弟姉妹が、被相続人より先に亡くなっている場合、その兄弟姉妹の子である甥・姪が代襲相続人になることがあります。
ただし、兄弟姉妹が相続放棄した場合、その子である甥・姪が代わりに相続するわけではありません。
「先に死亡している場合」と「相続放棄した場合」では取り扱いが異なるため注意が必要です。
兄弟姉妹の相続では戸籍関係が複雑になりやすく、被相続人の出生から死亡までの戸籍だけでなく、父母、兄弟姉妹などの戸籍が必要になる場合があります。
兄弟姉妹の不動産で相続放棄を検討した方がよいケース
相続放棄が適切かどうかは、財産と負債の状況によって異なります。
特に次のようなケースでは、早めに調査を始める必要があります。
1.借金が不動産の価値を上回っている
不動産に一定の価値があっても、住宅ローン、税金、カードローンなどの負債が多ければ、相続後の負担が大きくなる可能性があります。
不動産の査定価格だけで判断せず、売却費用、解体費用、登記費用、税金なども含めて検討します。
2.遠方にあり管理できない空き家
遠方の不動産は、現地確認、草刈り、換気、修繕、近隣対応などが負担になります。
管理会社へ委託すれば費用も発生します。
3.老朽化が激しく倒壊などの危険がある
屋根、外壁、擁壁などが劣化している場合、修繕や解体に多額の費用がかかることがあります。
近隣や道路へ損害を与えれば、損害賠償問題につながる可能性もあります。
4.売却が難しい土地や建物
次のような不動産は、一般的な住宅より売却が難しくなることがあります。
- 再建築不可
- 接道条件が不十分
- 境界が不明
- 共有者が多数いる
- 未登記建物がある
- 市街化調整区域にある
- 農地や山林
- 擁壁や高低差がある
- 残置物が多い
- 心理的な問題がある
ただし、「古い」「地方にある」「再建築できない」という理由だけで、価値がないと決めることはできません。
相続放棄をする前に、現状のまま売却できる可能性を確認することが重要です。
5.権利関係や相続関係が複雑
兄弟姉妹、甥・姪など多数の相続人がいる場合、売却や管理について意見がまとまらないことがあります。
過去の相続登記が行われていなければ、関係者がさらに増える可能性もあります。
相続放棄の期限は「自分が相続人になったと知った時から3か月」
相続放棄は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に、家庭裁判所へ申述する必要があります。
この3か月は、一般に「熟慮期間」と呼ばれます。
兄弟姉妹の場合、必ずしも被相続人の死亡日から3か月とは限りません。
例えば、先順位の相続人が相続放棄したことにより兄弟姉妹が相続人になった場合は、自分が相続人になったことを知った時点が問題になります。
ただし、具体的にいつから3か月を数えるかは、死亡を知った時期、先順位者の相続放棄を知った時期、財産や負債を把握した経緯などによって異なります。
期限が近い場合や、すでに3か月を過ぎている場合でも、自己判断で諦めず、弁護士や司法書士などへ早急に相談してください。
家庭裁判所の手続きについては、裁判所「相続の放棄の申述」でも確認できます。
3か月で判断できない場合は熟慮期間の伸長を検討する
兄弟姉妹の相続では、財産や借金の状況が分からないことも少なくありません。
特に、次のような場合は調査に時間がかかります。
- 長期間疎遠だった
- 通帳や契約書が見つからない
- 借入先が分からない
- 不動産が複数の地域にある
- 相続人の人数が多い
- 戸籍の収集に時間がかかる
- 不動産の査定や境界確認が必要
3か月以内に判断できない場合は、熟慮期間が経過する前に、家庭裁判所へ期間伸長を申し立てる方法があります。
伸長が自動的に認められるわけではありませんが、調査に時間が必要な場合の重要な選択肢です。
詳しい手続きは、裁判所「相続の承認または放棄の期間の伸長」で案内されています。
相続放棄は家庭裁判所への申述が必要
家族や債権者に、
「私は相続しません」
と伝えるだけでは、法律上の相続放棄にはなりません。
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ、相続放棄申述書と必要書類を提出します。
一般的な手続きの流れ
- 相続人と相続順位を戸籍で確認する
- 預貯金・不動産・借金を調査する
- 相続放棄をするか判断する
- 必要な戸籍等を収集する
- 家庭裁判所へ相続放棄を申述する
- 裁判所から照会書が届いた場合は回答する
- 相続放棄申述受理通知書を受け取る
兄弟姉妹や甥・姪が申し立てる場合、先順位の相続人がいないことを確認するため、多数の戸籍が必要になることがあります。
相続放棄前にしてはいけないこと
相続財産を処分すると、相続を承認したものと扱われ、相続放棄が難しくなる可能性があります。
判断が決まるまでは、次のような行為を安易に行わないことが大切です。
- 被相続人の預貯金を自分のために使う
- 不動産を売却する
- 自動車や貴金属を売る
- 家財を価値の確認なく処分する
- 賃貸物件を解約して敷金を受け取る
- 被相続人の債権を取り立てて自分のものにする
- 遺産分割協議書に署名する
- 相続人として不動産の処分契約を結ぶ
一方、葬儀費用の支払い、腐敗する物の処分、危険を防ぐための応急措置などが、直ちに単純承認になるとは限りません。
しかし、財産の内容や支出方法によって判断が異なるため、相続放棄を検討している場合は、財産へ手を付ける前に専門家へ確認することをおすすめします。
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったものと扱われる
相続放棄が受理されると、その相続については、原則として最初から相続人ではなかったものと扱われます。
そのため、通常は次のものを引き継ぎません。
- 兄弟姉妹名義の不動産
- 預貯金などの財産
- 借金
- 未払い債務
- 相続人としての固定資産税負担
- 相続財産を処分する権限
ただし、相続放棄をしても、生命保険金など受取人固有の財産を受け取れる場合があります。また、税務上の取り扱いは別途確認が必要です。
相続放棄後も空き家の管理責任は残るのか
「相続放棄をしても、次の相続人が管理するまで管理義務が残る」
という説明を目にすることがあります。
しかし、2023年4月1日に施行された改正民法では、相続放棄後の義務について整理されています。
現在の民法では、相続放棄をした時点で相続財産を「現に占有している人」は、その財産を相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで、自己の財産と同じ程度の注意をもって保存しなければならないとされています。
重要なのは、「相続放棄をした人全員に当然に義務が残る」のではないという点です。
保存義務が問題になりやすい例
- 亡くなった兄弟姉妹と同居していた
- 相続開始後も建物を事実上支配している
- 家財を保管したまま建物を占有している
- 相続財産である土地や建物を使用している
一方、遠方に住み、空き家を占有していない兄弟姉妹について、鍵を持っている、草刈りを手伝ったことがあるという事情だけで、直ちに民法上の保存義務があるとは断定できません。
「現に占有しているか」は個別事情によって判断されるため、相続放棄後の空き家対応に不安がある場合は、弁護士へ確認する必要があります。
相続放棄後も空き家が自動的に国の所有になるわけではない
法定相続人全員が相続放棄しても、不動産がその翌日から国の所有となり、国が管理してくれるわけではありません。
相続人がいなくなった場合、利害関係人や検察官からの申立てにより、家庭裁判所が相続財産清算人を選任する制度があります。
相続財産清算人は、債権者への支払いなどを行い、財産を清算します。特別縁故者への財産分与が行われる場合もあり、その後に残った財産が国庫へ帰属します。
相続財産清算のおおまかな流れ
- 法定相続人全員の相続放棄などにより相続人がいなくなる
- 利害関係人または検察官が家庭裁判所へ申立てる
- 家庭裁判所が相続財産清算人を選任する
- 相続人・債権者などを確認するための公告を行う
- 債権者への弁済や財産の換価を行う
- 必要に応じて特別縁故者への財産分与を行う
- 最後に残った財産が国庫へ帰属する
申立てには費用がかかり、財産から清算人の報酬などを支払えない可能性がある場合は、家庭裁判所から予納金を求められることがあります。
詳しくは、裁判所「相続財産清算人の選任」をご確認ください。
空き家を放置すると起こる問題
相続放棄をするかどうかにかかわらず、相続した空き家を長期間放置すると、次のような問題が発生する可能性があります。
建物の老朽化
換気や修繕が行われない建物では、雨漏り、腐食、シロアリ被害などが進行しやすくなります。
庭木や雑草の繁茂
庭木が隣地や道路へ越境したり、害虫・害獣の発生原因になったりすることがあります。
不法侵入や不法投棄
人が出入りしていないことが分かると、不法侵入、放火、不法投棄などのリスクが高まります。
近隣への被害
瓦、外壁材、塀などが落下・倒壊すれば、近隣住民や通行人へ被害を与える可能性があります。
管理不全空家・特定空家等になる可能性
適切に管理されていない空き家は、自治体から「管理不全空家等」または「特定空家等」として指導や勧告の対象になることがあります。
勧告を受けた場合、土地に適用されている固定資産税の住宅用地特例から除外される可能性もあります。
空き家対策制度については、国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」で確認できます。
相続放棄前に不動産の価値を確認する理由
「古い空き家だから価値はない」
「再建築できないので売れない」
と考え、調査をしないまま相続放棄を決めてしまう方もいます。
しかし、不動産の価値は建物の築年数だけでは判断できません。
次のような可能性があります。
- 建物は古くても土地に需要がある
- 現況のまま不動産会社が買い取れる
- 隣地所有者が購入を希望する
- 再建築不可でも活用方法がある
- 借地や駐車場として利用できる
- 解体費用を差し引いても売却益が残る
- 共有持分だけでも売却方法がある
相続放棄をすると、後から不動産に価値があると判明しても、その財産を受け取ることはできません。
一方、不動産に価値があっても、多額の借金があれば相続放棄が合理的な場合があります。
不動産査定だけで決めず、プラス財産とマイナス財産の全体を確認することが重要です。
兄弟姉妹で共有相続するときの注意点
相続放棄をせず、複数の兄弟姉妹で不動産を相続すると、共有名義になる場合があります。
共有不動産では、次のような問題が起こりやすくなります。
- 売却するか残すかで意見が分かれる
- 固定資産税の負担方法が決まらない
- 草刈りや修繕を一人だけが行っている
- 一部の共有者と連絡が取れない
- 次の相続によって甥・姪へ持分が細分化する
- 全体を売却するための同意がまとまらない
共有者は自己の持分だけを処分できる場合がありますが、不動産全体を売却するには、原則として共有者全員の合意が必要です。
「とりあえず法定相続分で共有する」という判断が、将来の売却を難しくすることもあります。
相続する場合は、誰が不動産を取得するのか、売却して現金で分けるのかなどを早い段階で話し合うことが大切です。
相続放棄と不動産売却を比較するポイント
相続放棄と、相続して不動産を売却する方法には、それぞれ違いがあります。
相続放棄が考えられるケース
- 借金がプラス財産を明らかに上回る
- 保証債務など不明な負債がある
- 不動産の処分費用が価値を上回る
- 相続問題に一切関わりたくない
- 他の財産を含めて取得する意思がない
相続後の売却が考えられるケース
- 借金より不動産や預貯金の価値が高い
- 現況のまま買い取る事業者がいる
- 土地としての需要が見込める
- 売却によって空き家問題を解決できる
- 売却代金を相続人間で分けられる
どちらを選ぶべきかは、不動産だけでなく相続財産全体を見て判断します。
相続した土地を国へ引き渡す制度との違い
相続土地国庫帰属制度は、相続などで取得した一定の土地を、審査と負担金の納付を経て国へ引き渡す制度です。
ただし、相続放棄とは異なります。
また、建物がある土地、境界に争いがある土地、管理や処分に過大な費用がかかる土地などは、対象外または不承認となる可能性があります。
空き家付きの土地を、そのまま国へ引き取ってもらえる制度ではありません。
詳しい要件は、法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」をご確認ください。
兄弟姉妹の相続放棄で確認すべきチェックリスト
相続放棄を検討するときは、次の事項を確認してください。
- 自分が相続人になった日はいつか
- 熟慮期間の期限はいつか
- 亡くなった方に配偶者や子どもがいるか
- 先順位者の相続放棄は受理されているか
- 預貯金や有価証券はあるか
- 借金や保証債務はあるか
- 不動産の名義と所在地は確認できたか
- 固定資産税の通知書はあるか
- 不動産の査定価格はいくらか
- 解体・測量・残置物処分にいくらかかるか
- 相続財産をすでに処分していないか
- 空き家を現に占有しているか
- 他の兄弟姉妹と情報を共有できているか
- 3か月で判断できない場合、期間伸長を検討したか
まとめ|兄弟姉妹の不動産は相続放棄前の調査が重要
兄弟姉妹の死亡によって、遠方の空き家、老朽化した住宅、売却が難しい土地、借金などを突然引き継ぐ可能性があります。
相続放棄は、こうした負担を引き継がないための重要な制度です。
ただし、次の点に注意が必要です。
- 不動産だけを選んで相続放棄することはできない
- 原則として自分が相続人になったと知った時から3か月以内に手続きする
- 家族に伝えるだけでは相続放棄にならない
- 相続財産を処分すると放棄できなくなる可能性がある
- 全員が放棄しても不動産が直ちに国有になるわけではない
- 放棄時に財産を現に占有している場合は保存義務が問題になる
- 古い空き家でも売却できる可能性がある
相続放棄を急ぐあまり、価値のある不動産まで手放してしまうことがあります。
反対に、十分な調査をせずに相続すると、後から多額の借金や維持管理費が判明する可能性もあります。
まずは期限を確認し、相続財産と負債の全体、不動産の価値、処分に必要な費用を整理することが、後悔しない判断につながります。
名古屋市で兄弟姉妹から相続した空き家にお困りの方へ
ふどうさんのMAGOでは、名古屋市を中心に、相続不動産、空き家、再建築不可物件、共有不動産、老朽化した建物などの売却相談を承っています。
「兄弟が住んでいた空き家に価値があるのか知りたい」
「相続するか放棄するか判断するために査定してほしい」
「遠方に住んでいるため現地を管理できない」
「兄弟姉妹で売却の話がまとまらない」
このようなお悩みがございましたら、早めにご相談ください。
不動産の現状と売却可能性を確認し、判断に必要な情報を整理いたします。
相続放棄そのものの判断や家庭裁判所への手続きについては、弁護士・司法書士などの専門家と連携しながら進めることが大切です。
※本記事は一般的な情報を提供するものであり、個別の法律相談を目的とするものではありません。相続放棄の期限、単純承認の成否、相続放棄後の保存義務などは、個別事情によって判断が異なります。実際の手続きは、管轄の家庭裁判所または弁護士・司法書士へご確認ください。


