「高低差があるから売れない」と言われた相続不動産の真実
こんにちは。
趣味は街歩き。名古屋市の街を歩き続けて8年になる、空き家が大好きな宅建士、ふどうさんのMAGOの保木です。
「600万円を払って擁壁を直してからでないと、売れないのでしょうか」
売主様は、クリアファイルから一枚の査定書を取り出しました。
そこに書かれていた査定価格は、4,800万円。
場所は、名古屋市昭和区広路町石坂。地下鉄鶴舞線・名城線の八事駅を利用できる住宅地です。
土地は約85坪。南側の道路より敷地が高く、道路との間には古いコンクリート擁壁がありました。敷地上には、ご両親が暮らした築50年を超える木造住宅が残っています。
最初に査定した不動産会社からは、こう説明されたそうです。
「建て替え時には、擁壁をやり直す可能性があります」
「工事費は600万円以上を見ておいた方がよいでしょう」
「そのリスクを考えると、4,800万円くらいです」
売主様は、価格が安いこと以上に、自分が判断できないことに困っていました。
600万円は、決定した工事費なのか。
全面的な造り直しが必要なのか。
誰が、何を根拠に判断したのか。
その説明がありませんでした。
最終的に、この土地は6,300万円で成約しました。最初の査定額との差は1,500万円です。
ただし、先に誤解のないようお伝えします。
🟥 「擁壁工事が不要だったから、1,500万円高く売れた」という話ではありません。
既存擁壁を将来もそのまま利用できるかは、買主の建築計画や専門家の検討によって変わります。600万円という概算も、条件によっては安すぎることも、高すぎることもあります。
今回変わったのは、土地でも擁壁でもありません。
変わったのは、査定の前提、調査の深さ、情報を伝える順番、そして買主の探し方でした。
この記事では、私自身が最初の販売で失敗したことも含め、なぜ同じ土地に1,500万円の価格差が生まれたのかをお話しします。
※本記事は実際の相談・売却経験をもとに、相談者様および物件を特定できないよう、土地面積、価格、時期、会話、経緯などの一部を調整して構成しています。
父親の家に「600万円のマイナス」が貼られたようだった
売主様は50代の女性でした。
数年前にお父様を亡くし、その後、お母様も施設へ入居。実家には誰も住まなくなりました。
最初の一年は、月に一度ほど風を通しに来ていたそうです。
郵便物を持ち帰る。
庭木を切る。
雨戸を開ける。
仏壇の前に座る。
ところが、誰も暮らしていない家を維持することは、想像以上に重い仕事です。
夏は草が伸びる。
台風が近づけば屋根が気になる。
冬になると水道管が心配になる。
施設の費用も続きます。
それでも売却を決めきれなかったのは、家の中に家族の時間が残っていたからでした。
玄関の靴箱には、お父様が使っていた靴べら。
台所には、お母様が買い置きしていた乾物。
廊下の壁には、孫の写真。
売主様は、こう話されました。
「土地として見れば古い家でしょうけれど、私には、父が最後まで手入れしていた家なんです」
その家が、擁壁工事600万円、解体費、造成リスクという言葉だけで引き算されていく。
売主様には、父親の家に大きな赤字札を貼られたように感じられたそうです。
しかし、不動産の安全上の問題と、家族の思い出は分けて考えなければなりません。
思い入れがあるから危険を軽く扱ってよいわけではありません。一方、擁壁があるから土地全体の魅力まで消えるわけでもありません。
この二つを混ぜないことが、今回の売却の出発点でした。
広路町石坂を歩くと「平らではないこと」が街の表情になっている
現地調査の日、私は八事駅周辺から物件まで歩きました。
このあたりは、地図を眺めるだけでは分かりません。
少し歩くと上り坂になる。
道路から階段を上がって玄関へ入る家がある。
石積み、コンクリート、植栽を組み合わせて高低差を処理した住宅がある。
道路より一段高い庭から、枝葉が塀の上へ伸びている。
平坦な住宅地とは違い、家が同じ高さに並んでいません。それぞれの敷地が、斜面や高低差と折り合いをつけながら建っています。
今回の土地も、道路から見ると擁壁が先に目に入ります。
ところが、階段を上がり敷地へ立つと印象が変わりました。
道路を走る車の視線が届きにくい。
南側から光が入る。
向かいの建物と目線がずれる。
道路面では感じなかった空の広さがある。
高低差は、工事費を増やす可能性のある条件である一方、日照、眺望、開放感、プライバシーを生む条件でもありました。
🟨 高低差のある土地は、道路から見たときと、敷地の上に立ったときで価値の見え方が変わります。机上査定だけでは、その差が抜け落ちることがあります。
4,800万円の査定は間違いだったのか
結論から言えば、4,800万円という査定を「間違い」と断定することはできません。
査定価格は、前提によって変わるからです。
早期売却を優先するのか。
一般の住宅購入者を想定するのか。
不動産会社の買取を想定するのか。
擁壁の全面再構築を見込むのか。
建物を残すのか、売主が解体するのか。
境界確認や契約責任を誰が負担するのか。
これらが違えば、同じ土地でも査定額は変わります。
問題は、4,800万円という数字そのものではありませんでした。
なぜ4,800万円なのか、その前提を売主様が比較できなかったことです。
最初の査定では、次のような引き算が行われていました。
| 評価項目 | 査定上の見方 |
|---|---|
| 築古建物 | 解体費を減額 |
| 道路との高低差 | 工事リスクを減額 |
| 古い擁壁 | 全面再構築の可能性を減額 |
| 工事費の不確実性 | 買主の価格交渉を見込み減額 |
| 売却期間 | 早期成約を優先して減額 |
リスクを価格へ反映すること自体は必要です。
しかし、土地の立地性、面積、日当たり、注文住宅需要、高低差を活用できる建築計画まで同じ深さで評価しなければ、引き算だけの査定になります。
🟥 低い査定が悪いのではありません。売主様が、価格と引き換えに何を避けられるのか分からない査定が危険なのです。
「擁壁工事600万円」の中身を聞くと、答えが止まった
私が最初に確認したのは、600万円の見積書でした。
しかし、正式な見積書はありませんでした。
擁壁の高さと延長を測った資料もありません。
地盤調査もありません。
既存擁壁の図面や確認資料も確認されていません。
買主が建てる建物の配置も決まっていません。
つまり600万円は、現地の印象と一般的な工事費から出した、初期段階の概算でした。
概算を伝えることが悪いわけではありません。
売主様へリスクを伝えるため、幅を持たせた工事費を示す場面はあります。
ただし、その数字を確定費用のように扱い、そのまま土地価格から差し引けば、査定の根拠が逆転します。
本来は、次の順番です。
- 擁壁の現況と資料を確認する
- 法令や必要手続きを確認する
- 買主が想定する建築計画との関係を検討する
- 必要な工事の範囲を考える
- その条件に応じた概算費用を出す
今回の査定では、5番の数字が先に出て、1番から4番が置き去りになっていました。
擁壁が古い。それだけで全面工事が決まるわけではない
今回の土地には、昭和期に築造されたと考えられるコンクリート擁壁がありました。
現地で私たちが確認した範囲では、大きな傾きや著しい膨らみ、明らかな崩落は見られませんでした。
しかし、ここで、
「見た目は大丈夫です」
と結論づけてはいけません。
不動産会社が目視で確認できるのは、あくまで表面に現れている状態です。
擁壁の安全性には、基礎、鉄筋、背面土、排水、地盤、増し積みの有無、上部建物の位置などが関係します。外から見えない部分も少なくありません。
また、既存擁壁を利用できるかどうかは、新しく建てる建物によって変わります。
建物を擁壁からどれだけ離すのか。
基礎をどの深さへ設けるのか。
駐車場をどこにつくるのか。
既存建物をどのように解体するのか。
掘削や工事車両が擁壁へ影響しないか。
土地だけを見て、「全面工事が必要」「そのまま使える」と二択で断定できる話ではありません。
🟨 古い擁壁の調査で目指すのは、安心できる言葉を集めることではありません。何が確認でき、何が未確認で、誰の判断が必要かを分けることです。
名古屋市では盛土規制の確認も必要
名古屋市では、令和7年5月19日から市内全域が盛土規制法に基づく「宅地造成等工事規制区域」に指定されています。切土・盛土や擁壁の工事が一定規模を超える場合、許可や届出等が必要になる可能性があります。
また、名古屋市の設計指針では、規制以前につくられ構造が明確でない古い擁壁について、原則的には築造替えが望ましいとしつつ、既存擁壁を残す場合には一級建築士等による安全性の事前確認を求める考え方が示されています。
ただし、区域指定や一般的な指針だけで、今回の擁壁について工事の要否が自動的に決まるわけではありません。工事の内容、擁壁の現況、確認資料、土地利用、建築計画を踏まえて個別に確認します。
私たちが調べたのは「安全か危険か」だけではなかった
今回の調査は、次の項目に分けて進めました。
1.擁壁の位置と所有関係
擁壁が売却対象地の中にあるのか、境界線上なのか、隣地側なのかを確認します。
擁壁の維持管理や将来工事を考えるうえで、所有関係は重要です。
2.形状と現況
高さ、延長、材質、傾き、膨らみ、ひび割れ、継ぎ目、補修跡、水抜き穴、雨水の流れ、上部地盤の状態を確認しました。
3.残っている資料
売主様の手元にある建築図面、確認関係書類、造成工事の記録、昔の写真を探しました。
資料が見つからない項目は、あるように見せず「確認できない」と整理しました。
4.行政で確認できる内容
現在の法令、区域、許可や手続きの考え方、行政で確認できる過去資料の有無などを調べました。
行政資料が見つからないことだけで違反とは断定できません。一方、資料が見つかったとしても、現在の構造安全性まで保証されるわけではありません。
5.新築計画への影響
建築士へ相談し、建物配置、基礎、駐車場、解体、掘削など、買主の計画によって確認内容が変わることを整理しました。
6.売却条件への影響
売主が擁壁工事をする場合、現況のまま売る場合、不動産会社へ買い取ってもらう場合について、価格、期間、費用、責任を比較しました。
この調査を終えても、「擁壁工事は絶対に不要」という答えは出ませんでした。
しかし、それでよかったのです。
根拠のない600万円が、建築計画に応じて検討すべき費用へ変わりました。
買主が自分の建築会社へ、具体的な質問をできる状態になったからです。
私の失敗談|魅力的な言葉へ置き換えれば売れると思った
調査を始めた当初、私は販売広告の見せ方を変えれば反応が増えると考えました。
「擁壁あり」ではなく、「南向きの高台」。
「道路との高低差」ではなく、「プライバシーを守りやすい敷地」。
「造成費が不明」ではなく、「建築家とつくる注文住宅向き」。
言葉としては、間違いではありません。
実際、高台だから得られる日照や開放感はありました。
ところが、最初の購入希望者が建築会社を連れてきたとき、私たちの準備不足が露呈しました。
建築会社から質問が続きました。
「擁壁の構造図はありますか」
「水抜きや背面排水はどうなっていますか」
「築造時の確認資料はありますか」
「既存擁壁を使う前提で価格を出していますか」
その場で答えられない項目がありました。
購入希望者は、高台の眺望を気に入っていました。
しかし、建築総額を読めません。
住宅ローンの相談も進められません。
数日後、購入を見送る連絡が入りました。
「土地は好きなのですが、買った後にいくら必要か分からないのが怖いです」
その言葉で、私は気づきました。
高低差を魅力的な言葉へ置き換えるだけでは、販売戦略になりません。
むしろ、欠点を言い換えて隠しているように見える危険があります。
🟥 私の失敗は、土地の魅力を伝えたことではありません。買主が最も知りたい不確実性より、魅力を先に説明したことでした。
販売方法を「広告」から「判断材料」に変えた
購入辞退後、私たちは販売資料を作り直しました。
単に写真を明るくしたり、眺望を強調したりしたのではありません。
最初から、次の情報をまとめて提示しました。
- 道路と敷地の高低差
- 擁壁のおおよその高さ、長さ、材質
- 現地で確認したひび割れ、傾き、補修跡等の状況
- 確認できた資料と、確認できなかった資料
- 既存擁壁の利用可否は建築計画に応じた専門判断が必要であること
- 将来、補修・補強・再構築等の費用が生じる可能性
- 買主の建築会社による早期の現地確認を歓迎すること
- 古家の解体や工事車両の進入について確認が必要なこと
そのうえで、高台としての日照、眺望、道路からの視線、八事駅へのアクセス、土地の広さを伝えました。
順番を変えたのです。
以前は、土地を好きになってもらった後に悪い情報を伝えていました。
見直し後は、最初に難しい情報を伝え、それでも検討できる人へ土地の魅力を見てもらいました。
| 当初の販売 | 見直し後の販売 |
|---|---|
| 高台・南向き・眺望を先に強調 | 高低差と未確認事項を先に開示 |
| 擁壁は内覧後に詳しく説明 | 検討初期から資料を共有 |
| 買主本人を中心に案内 | 建築士・建築会社も判断者と考える |
| 600万円を一つの費用として扱う | 建築計画ごとに工事範囲を検討 |
| 安心させる説明 | 自分で判断できる説明 |
問い合わせの数が急増したわけではありません。
しかし、問い合わせの中身が変わりました。
「擁壁は大丈夫ですか」
という質問だけで終わらず、
「設計者を連れて現地を見てもよいですか」
「建物を道路側から離した場合は、どんな検討が必要ですか」
「駐車場を掘り込む案と、現在の階段を活用する案を比較できますか」
という相談が増えました。
買主がリスクを恐れなくなったのではありません。
リスクを検討する入口が見えるようになったのです。
想定外の展開|買主は「擁壁を使えるか」より先に土地の上へ立った
最終的に購入されたのは、注文住宅を検討していたご夫婦でした。
最初の現地案内には、設計を依頼する予定の建築関係者も同行しました。
私は道路側で、擁壁の現況と確認できていない資料について説明を始めました。
すると、ご主人が言いました。
「先に上へ行ってもいいですか」
敷地へ上がると、ご夫婦はしばらく南側を眺めていました。
奥様は、道路から室内が見えにくいことを気に入られました。
ご主人は、道路面と庭の高さが違うことで、生活空間を落ち着かせられると考えていました。
設計者は、擁壁を楽観視しませんでした。
既存擁壁を利用できるか。
建物をどこへ配置するか。
基礎や掘削はどうするか。
将来工事の可能性を資金計画へどこまで入れるか。
それぞれ持ち帰って検討することになりました。
私は、また時間がかかると思いました。
ところが数日後、買主様から届いたのは値下げ要求ではなく、確認事項の一覧でした。
そこには、工事費を一つの数字で断定する質問はありませんでした。
どの資料が残っているのか。
売主が把握している補修履歴はあるか。
境界確認はどこまで行うのか。
解体時の扱いを契約条件へどう反映するのか。
未確認事項を双方でどのように認識するのか。
買主様は、「擁壁を気にしない人」ではありませんでした。
むしろ、これまでの購入希望者より慎重でした。
慎重だからこそ、分からないことを理由に土地全体を諦めるのではなく、分けて検討できたのです。
なぜ6,300万円で成約したのか
今回の価格を整理すると、次のようになります。
| 内容 | 金額 |
|---|---|
| 最初の不動産会社の査定額 | 4,800万円 |
| 当社が検討した価格帯 | 6,000万円前後 |
| 最終成約価格 | 6,300万円 |
| 最初の査定額との差 | 1,500万円 |
この1,500万円は、擁壁を直して生まれた利益ではありません。
また、600万円の工事費を否定したことで、単純に価格が上がったわけでもありません。
主な違いは、次の5点でした。
1.査定の目的が違った
最初の査定は、擁壁リスクを大きく見込み、早期に売り切れる価格へ寄せたものでした。
見直し後は、一定の販売期間を取り、注文住宅を検討する層へ届ける前提でした。
2.600万円を確定費用として差し引かなかった
工事内容が決まっていない段階で、一つの概算を土地価格から機械的に引きませんでした。
ただし、将来費用の可能性は隠さず、買主の資金計画で検討してもらいました。
3.買主層を変えた
平坦で分かりやすい土地を求める方だけでなく、八事周辺で注文住宅を検討し、高低差を設計へ取り込める方へ情報を届けました。
4.専門家が早く参加できる販売にした
契約直前に建築会社が問題を指摘するのではなく、購入検討の初期から現地と資料を確認できるようにしました。
5.リスクと魅力を同じ資料で伝えた
高台、日照、眺望、プライバシーだけを宣伝せず、擁壁の未確認事項と将来負担も同時に示しました。
🟩 1,500万円の差を生んだのは、土地の欠点を隠したことではありません。欠点を一つの大きな恐怖から、買主が検討できる複数の項目へ分けたことです。
なお、一社の査定額と最終成約価格の差が、そのまま売主様の純利益になるわけではありません。
販売期間、仲介手数料、測量、解体、残置物、契約条件、税金なども異なります。売却方法を比較するときは、価格だけでなく最終手取りと責任まで確認する必要があります。
高低差土地の査定で「工事費を引く」前に確認すること
高低差のある土地では、工事費を見込むこと自体は間違いではありません。
ただし、次の条件を確認せずに金額だけを引くと、過大にも過小にもなります。
- 擁壁の高さ、長さ、材質、築造時期
- 構造図、許可、確認、検査等の資料
- ひび割れ、傾き、膨らみ、沈下、補修跡
- 水抜き穴、背面排水、雨水経路
- 擁壁と境界の位置関係
- 上部建物と擁壁の距離
- 建物解体時の施工方法
- 新築建物の位置、規模、基礎計画
- 駐車場造成や掘削の有無
- 工事車両と資材の搬入
- 隣地、道路への影響
- 現在の法令と必要手続き
同じ85坪の土地でも、擁壁を全面再構築する案、建物配置を工夫する案、駐車場部分だけを改修する案では、工事内容が違います。
「600万円かかるか、ゼロ円か」という二択ではありません。
専門家はそれぞれ何を見るのか
高低差土地では、相談先を増やすことより、質問を正しい専門家へ渡すことが重要です。
| 専門家・機関 | 主に確認すること |
|---|---|
| 不動産会社 | 市場価格、買主層、販売方法、情報開示、契約条件 |
| 建築士・構造や造成の専門家 | 擁壁の変状、構造、地盤、排水、建築計画への影響 |
| 建築会社・造成業者 | 実際の施工方法、工事範囲、搬入、概算費用 |
| 土地家屋調査士 | 境界、測量、擁壁と筆界の位置関係 |
| 行政 | 法令、区域、許可記録、現在必要な手続き |
| 金融機関 | 担保評価、建築費を含む資金計画、融資条件 |
| 税理士 | 譲渡所得、相続税取得費加算等の税務検討 |
土地家屋調査士が擁壁の安全性を保証するわけではありません。
行政が個別の擁壁について、将来も安全だと保証するわけでもありません。
不動産会社が目視だけで、建築可能性や工事費を断定することも適切ではありません。
「誰かが大丈夫と言った」ではなく、「誰が、どの範囲を、何の資料で確認したか」を残すことが大切です。
売主が先に擁壁工事をすれば高く売れるのか
売主様からよく聞かれる質問です。
「600万円かけて直せば、もっと高く売れますか」
答えは、物件ごとに違います。
売主様が先に工事をすれば、買主の不安が減る可能性はあります。
一方、買主が希望する建物配置、駐車場、階段と工事内容が合わず、再工事になることも考えられます。
また、擁壁工事を行うには、設計、許可、近隣調整、仮設、排水、造成、外構など、擁壁本体以外の費用が生じる場合があります。
したがって、先に比較したいのは、次の4案です。
案1|現況のまま、情報をそろえて売る
買主の建築計画に応じて検討してもらう方法です。売主が先に大きな工事費を負担せずに済む一方、価格や契約条件でリスクを調整する必要があります。
案2|調査・測量を行い、工事は買主へ任せる
構造上の断定まではできなくても、境界、現況、資料、法令を整理し、買主の判断材料を増やします。
案3|必要な補修・安全対策を行って売る
明らかな変状や第三者への危険が懸念される場合など、売却前に対応を検討すべきケースがあります。
案4|不動産会社へ現況買取を依頼する
価格は一般市場より低くなる傾向がありますが、売却時期や契約条件を決めやすく、調査・工事・再販売リスクを買主側が負担する場合があります。
🟨 先に工事をするかどうかは、「直せば売れる」という期待ではなく、工事後の価格上昇、費用、期間、買主の建築自由度を比較して決めます。
高低差土地の売却で避けたい7つの失敗
1.一社の査定額を市場価格だと思う
査定は予測です。査定の目的、想定買主、工事費、売却期間、契約条件を確認してください。
2.概算工事費を確定費用として扱う
建築計画や工事範囲が決まる前の数字には、幅があります。見積条件を確認する必要があります。
3.見た目だけで「安全」「危険」と断定する
表面に大きな変状がなくても、内部や背面は分かりません。反対に、古いという理由だけで全面再構築が決まるわけでもありません。
4.高台、眺望という言葉で問題を飾る
魅力だけを先に伝えると、契約直前の専門確認で話が流れる原因になります。
5.買主の建築会社を最後に呼ぶ
購入申込み後ではなく、検討初期に現地確認できる日程をつくる方が、買主も資金計画を立てやすくなります。
6.売主が先に全面工事を決める
買主の計画と合わない工事をすると、費用を価格へ反映できない可能性があります。
7.成約価格だけで成功を語る
売却期間、工事費、測量費、責任、税金を差し引いた手取りで比較しなければ、本当に有利だったかは分かりません。
高低差土地を相続した売主様が、不動産会社へ聞くべき質問
専門用語を覚える必要はありません。
次の内容を、自分の言葉で聞いてみてください。
「擁壁工事費は、どの工事を前提に計算していますか」
「全面的な造り直しが必要だと判断した資料はありますか」
「確認できていることと、確認できていないことを分けてください」
「売主が工事する場合と、現況で売る場合の手取りを比較できますか」
「どのような買主を想定した査定ですか」
「購入希望者の建築会社に、早い段階で現地を見てもらえますか」
「価格を下げる以外に、判断材料を増やす方法はありますか」
具体的に答えられる会社は、必ず高く売れる会社という意味ではありません。
しかし、売主様がリスクと選択肢を理解したうえで決められる可能性は高くなります。
よくある質問
Q1.古い擁壁がある土地は売却できますか
売却できる可能性はあります。ただし、擁壁の状態、資料、境界、法令、買主の建築計画、金融機関の判断によって条件は変わります。現況や未確認事項を整理し、適切に説明することが重要です。
Q2.擁壁工事費は土地価格から全額引かれますか
必ずしも全額が機械的に引かれるわけではありません。工事の必要性、範囲、買主の計画、地域需要、売却条件によって市場での影響は異なります。
Q3.RC擁壁なら安全ですか
RC擁壁であることだけでは安全性を判断できません。築造時期、構造、劣化、排水、地盤、補修履歴、上部利用などを含めた確認が必要です。
Q4.売却前に建物を解体した方がよいですか
高低差土地では、解体方法が擁壁へ影響する場合があります。また、建物を残した方が敷地の使い方や眺望を伝えやすいこともあります。再建築や工事条件を確認してから判断してください。
Q5.不動産会社の現地確認だけで十分ですか
売却価格や販売方法の検討には不動産会社が関わりますが、擁壁の構造安全性や具体的な建築計画は、建築士、構造・造成の専門家、建築会社等への確認が必要です。
Q6.査定額が1,500万円違うことはありますか
土地面積が大きく、立地性が高く、擁壁工事や売却期間の前提が異なる場合、査定差が大きくなることはあります。ただし、高い査定額がそのまま成約価格になるとは限りません。根拠と販売計画を比較することが必要です。
契約当日、売主様が見ていたのは価格ではなかった
契約当日、売主様は早めに事務所へ来られました。
机の上には、最初の4,800万円の査定書も持ってこられていました。
私は、6,300万円で決まったことを喜ばれると思っていました。
しかし売主様が気にしていたのは、別のことでした。
「買主様は、擁壁のことを本当に分かってくださっていますか」
高く売れた後で、買主が後悔することを心配されていたのです。
重要事項説明では、現地の状況、確認できた資料、未確認事項、買主の建築計画に応じた専門確認が必要なこと、将来工事が生じる可能性などを確認しました。
買主様は、
「分からない部分も含めて検討しました」
と答えられました。
契約後、売主様は最初の査定書をファイルへ戻しながら、こう話されました。
「父が、あの高さから外を見るのが好きだったんです」
道路より高いことは、最初の査定では工事費の原因でした。
売主様にとっては、お父様が何十年も気に入っていた景色でした。
買主様にとっては、これからつくる家の生活空間でした。
一つの高低差に、三つの見方があったのです。
まとめ|土地が1,500万円高くなったのではない。見えていなかった価値が価格へ戻った
名古屋市昭和区広路町石坂の今回の土地は、最初の不動産会社から4,800万円と査定され、擁壁工事に600万円以上かかる可能性を指摘されていました。
最終成約価格は6,300万円。
差額は1,500万円でした。
しかし、この結果を、
「擁壁工事は必要なかった」
「高低差はすべて長所になる」
「低い査定を出す会社は間違っている」
という話にしてはいけません。
今回の土地にも、擁壁に関する未確認事項と将来負担の可能性は残りました。
売却できた理由は、それを消したからではありません。
何が分かっているのか。
何が分からないのか。
誰が判断するのか。
建築計画によって何が変わるのか。
その土地の高低差を魅力と感じるのは誰なのか。
これらを一つずつ分け、買主が契約前に検討できる状態をつくったからです。
🟥 擁壁のリスクを隠して高く売ることは、売主様の利益にはなりません。
🟩 根拠のない工事費で土地全体を安く評価することも、売主様の利益にはなりません。
高低差土地の売却で必要なのは、「大丈夫です」という安心の演出ではありません。
リスクを正しく調べ、分からないことを明らかにし、それでも残る土地の魅力を、理解できる買主へ届けることです。
私は街歩きをしていて、道路より高い場所に建つ古い家を見つけると、擁壁だけを見ないようにしています。
階段を上がった先に、どんな光が入るのか。
道路から室内はどう見えるのか。
風はどこから抜けるのか。
なぜ、この家の所有者は何十年もここで暮らしたのか。
同時に、擁壁の亀裂、排水、補修跡、境界、建築時の施工条件も見ます。
魅力とリスクのどちらか一方だけを見れば、土地の評価を間違えます。
難しい土地とは、価値がない土地ではありません。価値とリスクを同じ紙の上へ並べる必要がある土地です。
名古屋市昭和区で高低差土地・擁壁付き土地を相続した方へ
ふどうさんのMAGOは、名古屋市南区を拠点に、昭和区を含む名古屋市内の空き家、相続不動産、高低差土地、擁壁付き土地の売却をお手伝いしています。
次のような段階でも構いません。
- 擁壁工事に数百万円かかると言われた
- 高低差があるため査定価格を大きく下げられた
- 擁壁の図面や築造時期が分からない
- 売却前に擁壁を直すべきか迷っている
- 建物を解体すると擁壁へ影響しないか心配
- 査定価格が会社によって大きく違う
- 購入希望者が建築会社の確認後に辞退した
- 県外に住んでいて相続した実家を管理できない
- 高台としての魅力を販売へ生かしたい
最初から、「工事は不要です」「必ず高く売れます」とは申し上げられません。
まず現地を確認します。
道路と敷地の高低差。
擁壁の形状と現況。
境界。
排水。
建物の位置。
工事車両の進入。
周辺の住宅と土地利用。
そして、確認できた資料と、確認できない事項を整理します。
そのうえで、現況売却、調査後の売却、必要な工事後の売却、不動産買取などを比較し、売却価格だけでなく最終手取り、期間、責任を一緒に考えます。
「高低差があるから安い」と決める前に、その工事費は何を前提にしているのか、その土地を高く評価できる買主は誰なのかを確認してみませんか。
対応エリア
名古屋市南区・昭和区・瑞穂区・熱田区・天白区・緑区・港区・中川区・中村区・中区・千種区・名東区・守山区をはじめ、名古屋市全域および愛知県内に対応しています。
※擁壁の安全性、既存擁壁を利用した建築の可否、必要な補修・補強・再構築の方法および費用は、擁壁の構造、築造時期、現況、地盤、排水状況、法令ならびに買主の建築計画によって異なります。不動産会社の目視だけで判断せず、必要に応じて名古屋市、建築士、構造・造成の専門家、建築会社、土地家屋調査士等へご確認ください。
※本記事の価格は、売却事例の理解を助けるため、個人や物件を特定できないよう一部調整しています。一社の査定額と成約価格の差は、すべての高低差土地で同様の結果を保証するものではありません。
参考にした公的情報
- 名古屋市「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)」
- 名古屋市「宅地造成工事技術指針」
- 名古屋市「宅地造成等に関する工事許可申請の手引」
- 国土交通省「我が家の擁壁チェックシート(案)」等の盛土・擁壁安全対策資料


