「建て替えできないなら、売れませんよね?」から始まった相続空き家の話
こんにちは。
趣味は街歩き。名古屋市の街を歩き続けて8年になる、空き家が大好きな宅建士、ふどうさんのMAGOの保木です。
「建て替えもできないんです」
最初の面談で、売主様は申し訳なさそうにそうおっしゃいました。
まるで、売れない家を相談に持ち込んだことを謝っているようでした。
物件は、名古屋市中村区にある木造長屋の一戸。
築年数を確認できる資料は見つからず、建物の造りや残っていた書類から、昭和30年代後半から40年代前半ごろに建てられた可能性がある住宅でした。
数年前にお父様が亡くなり、売主様が相続しました。
しかし、売主様には別の住まいがあります。実家へ戻る予定はありません。
空き家のまま数年が過ぎ、天井には雨染み。台所の床には沈み。隣戸とは壁も屋根もつながっています。
さらに、敷地は建築基準法上の接道条件を満たしていない可能性がありました。
再建築が難しい。
長屋である。
築年数が分からない。
雨漏りがある。
この四つだけを査定書に並べれば、「価値はほとんどありません」という結論になりそうです。
実際、売主様は以前相談した担当者から、そう受け取れる言葉を聞いていました。
「正直、この状態では値段は期待できません」
売主様が傷ついたのは、低い査定額ではありませんでした。
両親が働いて買い、家族で暮らした場所を、価値がないと言われたように感じたことでした。
ただ、先に結論をお伝えします。
この長屋には、買主が見つかりました。
高く見せるために欠点を隠したわけではありません。
再建築できるようになったわけでもありません。
全面的なリノベーションをしたわけでもありません。
買主が見つかった理由は、「この家を単独の古い戸建て」として見るのをやめたからです。
この記事では、再建築不可と考えられた長屋の売却で何を調べ、どこで失敗し、なぜ最後に買主が決断できたのかを、現場の視点からお話しします。
※本文は実際の相談・売却経験をもとに、相談者様や物件を特定できないよう、所在地、築年数、価格、期間、会話、経緯などの一部を調整して再構成しています。
相続したのは、家だけではなく「父が帰ってくる場所」だった
お父様が亡くなった後も、室内はしばらく生活していたときのままでした。
玄関には古いサンダル。
壁には、電気店の名前が入った時計。
台所の引き出しには、輪ゴムで束ねた割り箸。
冷蔵庫の横には、売主様のお子さんが幼いころに描いた絵が、色あせたテープで留められていました。
売主様は年に数回、窓を開けるために訪れていました。
しかし、片づけは進みませんでした。
「父がいないことは分かっています。でも、物を全部なくしたら、本当に帰ってこない家になる気がして」
不動産の相談では、固定資産税や修繕費を計算できます。
ところが、実家を手放すときの抵抗は、計算表には出てきません。
売主様は、家を残したかったというより、決断を先送りできる状態を残していたのだと思います。
その間にも雨漏りは進みました。
長屋では、自分の住戸だけの問題で終わらないことがあります。
雨水が屋根のどこから入っているのか。
隣戸側へ影響していないか。
外壁や雨どいの補修を、どこまで単独で行えるのか。
空き家の老朽化が、つながる建物全体の不安へ変わり始めていました。
売却を決めたきっかけは、相続から何年たったからでも、査定価格が上がったからでもありません。
雨の日、隣戸の方から、
「そちらとの境目あたりから水が落ちています」
と連絡があったことでした。
売主様はその日、初めて「何もしないことも、家の行く末を決めている」と感じたそうです。
中村区を歩くと、名古屋駅の近さだけでは説明できない街がある
名古屋市中村区と聞くと、多くの方は名古屋駅周辺の高層ビルや再開発を思い浮かべるかもしれません。
しかし、駅から少し歩くと街の表情は変わります。
新しい集合住宅の間に、間口の小さな家が続く。
一本裏へ入ると、車が通れない細道が残る。
軒と軒が近く、隣同士の生活の気配が道路へにじむ。
中村区竹橋町には、昭和初期に建てられた3軒長屋を改修し、宿として活用している建物もあります。古い長屋がすべて同じ条件という意味ではありませんが、この街では、連なる建物を使い継いできた歴史を実際に見ることができます。
私は中村区を歩くとき、駅から何分かだけを見ません。
朝、どの方向へ自転車が流れるのか。
近くの店は夜まで開いているか。
路地へ引越し車両が入れるか。
ごみ置場はどこか。
隣家の屋根と対象建物の屋根が、どこでつながっているか。
雨の日には、水がどちらへ流れているか。
地図上では一つの建物に見えても、現地では住戸ごとに玄関、補修状態、暮らし方が違います。
逆に、登記上は別々に見えても、構造上は簡単に切り離せないことがあります。
🟨 長屋の査定は、対象住戸の室内だけを見てもできません。道路から屋根を見て、裏側へ回り、隣戸との境目を確認し、建物全体がどう支え合っているかを見る必要があります。
そもそも「長屋」とは何か
長屋は、複数の住戸が壁などを接して連続し、それぞれに直接出入りできる住宅です。
外から見ると一棟の建物でも、所有や登記の形は物件ごとに異なります。
- 建物全体が一つの登記で、複数人が共有している
- 各住戸が区分建物として登記されている
- 壁を接しているが、それぞれ別棟として登記されている
- 建物と土地の所有者が一致していない
- 土地が共有、借地、複数筆にまたがっている
「長屋だからこうだ」と外観だけで決めることはできません。
確認したいのは、少なくとも次の点です。
建物の登記
売主様が所有しているのは、長屋全体なのか、一戸分なのか、共有持分なのか。
登記面積と現況が一致しているか。未登記の増築部分がないかも確認します。
土地の権利
土地を単独で所有しているのか、共有しているのか、借地なのか。
建物だけを所有し、土地利用の根拠が古い契約や親族間の了解に頼っている場合もあります。
構造上のつながり
界壁、柱、梁、基礎、屋根、雨どい、配管がどのようにつながっているか。
一戸だけを解体・改修したとき、隣戸の安全性、防水、防火へ影響しないかを考えます。
利用上の関係
通路、排水、屋外設備、物干し場、境界付近などを、長年の慣習で共同利用していることがあります。
口頭の了解だけで続いている関係は、所有者が変わると問題になる可能性があります。
🟥 長屋の「一戸を所有している」ことと、その一戸を戸建てと同じように自由に解体・改修できることは同じではありません。
再建築不可とは「今の建物が違法」という意味ではない
再建築不可は、不動産広告や実務で使われる表現です。
一般には、現在の建物を取り壊した後、現行の法令や敷地条件のもとで新しい建物を建築できない、または建築が非常に難しい状態を指します。
代表的な理由は接道です。
建築基準法では、建築物の敷地は原則として、建築基準法上の道路へ2m以上接する必要があります。
ただし、次のことは分けて考えます。
現在の建物が存在すること。
現在の建物が建築当時に適法だったかどうか。
現在、大規模な改修ができるかどうか。
解体後に新築できるかどうか。
これらは同じ問題ではありません。
法令施行や改正によって、建築時には適法だった建物が現在の規定に合わなくなった「既存不適格」の場合があります。
一方、建築当初から法令に適合していない、無確認の増築があるなど、違反建築の可能性が問題になる場合もあります。
築年数が古いという理由だけで、どちらかを断定することはできません。
また、接道要件を満たさない場合でも、一定の条件のもとで建築基準法第43条第2項の認定・許可を検討できることがあります。名古屋市にも接道認定・接道許可の制度があります。
しかし、将来の買主が希望する建物について、売却時点で認定・許可を保証できるわけではありません。
🟨 「再建築不可」と書かれた査定書をそのまま信じるのではなく、道路種別、接道長さ、敷地、過去の建築資料、認定・許可の可能性を確認します。それでも未確定なら、未確定のまま正確に買主へ伝えます。
長屋と再建築不可が重なると、何が難しくなるのか
今回の物件は、単独の再建築不可住宅より確認事項が多い案件でした。
1.解体が自分の敷地内だけで完結しない可能性
壁や屋根、柱、基礎が隣戸と連続していれば、一戸だけの切り離しが隣戸へ影響する可能性があります。
技術的に切り離せるか。
隣戸側に残る壁の防水・防火・構造補強をどうするか。
工事車両や足場をどこへ置くか。
費用を誰が負担するか。
所有・境界関係によっては、隣戸所有者との協議や、法的な確認が必要になります。
2.修繕の範囲を決めにくい
雨漏りの入口が対象住戸側でも、水が隣戸側へ回っている場合があります。
屋根だけを部分補修してよいのか。共有・共用に当たる部分があるのか。建物の所有形態と構造を確認せず、工事業者の判断だけで進めるのは危険です。
3.買主の融資が難しくなりやすい
再建築性、老朽化、権利関係、切り離しリスクなどから、金融機関が担保評価を慎重に行う場合があります。
融資を利用できるかは金融機関ごとの審査ですが、一般的な戸建住宅と同じ資金計画では進まない可能性があります。
4.将来の出口が読みづらい
現在は利用できても、火災や地震、老朽化で建物を失えばどうなるか。
将来売却するとき、次の買主は見つかるか。
隣戸が空き家になったら、建物全体の管理はどうなるか。
買主は現在の利回りだけでなく、最後の出口まで考えます。
私の失敗|「投資家なら利回りで買う」と思い込んだ
私は最初、一般の住宅購入者ではなく、投資家へ届ける方針を立てました。
中村区の立地。
駅へのアクセス。
周辺の賃貸需要。
購入価格と想定家賃。
現在の建物を直して貸せるなら、収益物件として検討できる人がいると考えたからです。
販売後、実際に投資家から問い合わせが入りました。
現地を案内すると、その方は室内を手早く見て、想定家賃と改修費を計算していました。
「再建築不可でも、利回りが合えば問題ありません」
その言葉を聞き、私は売却できると思いました。
ところが、屋根裏と隣戸との境を確認した工事業者から、慎重な意見が出ました。
雨漏りの原因が対象住戸だけでは特定できない。
屋根の連続部分をどこまで工事するか、隣戸との調整が必要になる可能性がある。
床の傾きもあり、当初の簡易見積りでは収まらないかもしれない。
投資家は再計算した後、購入を見送りました。
表面上の理由は「改修費が高い」でした。
しかし、本当の理由は費用の額だけではありません。
誰と、どの範囲を、どの責任で直せばよいのか分からなかったことでした。
私は「投資家は再建築不可に慣れている」と一括りにしていました。
しかし、投資家も不明なリスクを無条件には買いません。
むしろ数字で判断するからこそ、費用の上限が見えない物件には慎重です。
🟥 最初の販売で私が伝えたのは、家賃と価格でした。買主が本当に知りたかったのは、長屋全体の構造と、隣戸との調整を含む改修の道筋でした。
「この家の価値」ではなく「この長屋の関係」を調べ直した
最初の買主候補が離れた後、価格を下げる前に調査の入口を変えました。
対象住戸だけを見るのをやめ、長屋全体との関係を整理したのです。
登記と権利関係
土地・建物の登記事項証明書、公図、地積測量図、相続関係資料を確認しました。
所有している範囲、共有の有無、担保権、未登記部分の可能性を整理しました。
道路と建築関係
指定道路図、現地の通路、接道状況、過去の建築確認関係資料の有無などを調べました。
将来の再建築について確定できない部分は、可能であるかのように扱わず、未確認事項として整理しました。
建物のつながり
外から屋根、軒、雨どい、外壁の連続を確認しました。
室内では界壁付近、柱、天井裏、床の状態を確認し、必要な範囲で建築士や工事業者の意見を聞きました。
不動産会社の目視だけで、構造安全性や切り離し工事の可否を断定することはできません。
隣戸との関係
売主様の了承を得て、隣戸所有者へ、雨漏りの経緯や過去の補修について話を聞きました。
ここで、思いもよらない事実が分かりました。
隣戸所有者も、将来の修繕に不安を感じていたのです。
対象住戸が空き家であるため、屋根や境界付近に異常があっても、誰に連絡すればよいか分からない。
売却され、事情を知らない所有者へ変わることにも不安がある。
私たちは、対象物件を買う人ばかり探していました。
しかし隣戸側から見ると、対象住戸は「隣にある売物件」ではありません。
自分の家の将来に直接つながる場所だったのです。
想定外の買主候補は、壁の向こう側にいた
隣戸所有者との最初の話題は、売買ではありませんでした。
雨漏りと今後の管理についてでした。
どこを調べるか。
応急措置をするなら、どの範囲か。
売却活動中、内覧の際に迷惑をかけないか。
その説明が終わった後、隣戸所有者から質問されました。
「もし売るなら、どんな人が買うのですか」
私は、投資家やリノベーション事業者などを想定していること、再建築や建物状態のリスクを理解できる買主へ情報を開示して販売することを説明しました。
少し沈黙した後、その方はこう言いました。
「それなら、自分たちで持つ方法もありますか」
隣戸所有者は、すぐに対象住戸へ住むつもりではありませんでした。
将来、親族が近くへ戻ってきたときの住まい。
自宅の工事を行う際の調整。
二戸を一体として管理できる可能性。
そして何より、壁の向こう側の所有者が分からなくなる不安を減らしたい。
一般の買主には弱点となる「隣戸とつながっていること」が、隣戸所有者には別の意味を持っていました。
ただし、隣だから必ず高く買ってくれるわけではありません。
必要性がある相手だからこそ、売主が不利な条件を受け入れてしまう場合もあります。
そこで、隣戸への提案だけに絞らず、買取会社の条件、投資家向け販売を続けた場合の想定、必要費用を並べました。
また、買主候補である隣戸所有者にも、次の点を理解していただきました。
- 将来の再建築を保証できないこと
- 建物の築年数と建築資料に未確認事項があること
- 雨漏りや床の傾きなどの現況
- 改修前に建築士・施工会社の確認が必要なこと
- 建物を一体利用できるかは別途専門確認が必要なこと
- 将来一戸だけを解体する場合、技術・権利・近隣調整が必要になること
最終的に、価格、残置物、補修、引渡し時期、売主の契約上の責任を調整し、売買契約へ進みました。
🟩 この長屋が売れた理由は、再建築不可を気にしない投資家が現れたからではありません。長屋のつながりそのものに価値と責任を感じる相手へ、良い情報も悪い情報も届けたからです。
隣戸へ売れば、すべて解決するわけではない
今回の展開だけを見ると、「長屋は隣へ売ればよい」と思われるかもしれません。
しかし、隣戸売却は万能ではありません。
隣戸に購入資金がないこともあります。
これ以上不動産を持ちたくない方もいます。
過去の騒音、境界、修繕費などをめぐり、関係が悪化している場合もあります。
隣戸が購入を希望しても、一般市場より著しく低い価格しか提示されないこともあります。
また、購入後に二戸を自由に一体化できるとは限りません。
構造、防火、避難、用途、確認申請、登記などの検討が必要になる場合があります。
大切なのは、隣戸を唯一の買主と決めつけることではなく、長屋に特有の買主候補の一人として、他の出口と比較することです。
隣戸へ声をかける際も、売主様の了承を得て、プライバシーと今後の近隣関係へ配慮する必要があります。
「長屋だから安い」は半分正しい。しかし査定の根拠が必要
長屋の一戸で再建築が難しければ、一般的な戸建てより流通性が低くなりやすいでしょう。
買主が限定される。
住宅ローンが難しい。
修繕に隣戸との調整が必要になる可能性がある。
将来の解体や再売却が読みにくい。
こうしたリスクが価格へ反映されること自体は不自然ではありません。
しかし、
「再建築不可だから一律に何割」
「長屋だから土地値はゼロ」
という査定では、個別の価値を見落とします。
同じ長屋でも、次の条件で評価は変わります。
- 駅や商業施設への距離
- 現在の建物の利用可能性
- 雨漏り、傾き、腐朽、シロアリなどの状態
- 土地・建物の所有形態
- 接道認定・許可を検討できる余地
- 通行・掘削・配管の条件
- 賃貸需要と想定改修費
- 隣戸所有者の意向
- 長屋全体の空き家状況
- 残置物や引渡し条件
査定額だけでなく、どの買主を想定し、どの費用とリスクを差し引いたのかを確認してください。
業界の本音|長屋は「売れない」のではなく、調査が報酬に見合いにくい
少し率直にお話しします。
築古長屋の売却は、一般的なマンションや整形地より手間がかかります。
道路を調べる。
建築資料を探す。
土地と建物の登記を照合する。
隣戸との構造的なつながりを見る。
雨漏りや傾きの原因を専門家へ確認する。
買主の融資と改修計画を調整する。
未確認事項を重要事項説明や契約条件へ反映する。
一方、売買価格が低ければ、仲介会社が受け取れる報酬にも限りがあります。
そのため、調査に時間をかけず、低い買取価格を提示して早く終わらせたいという力が働く場合があります。
買取そのものが悪いわけではありません。
雨漏りが進み、近隣への影響があり、売主様が遠方に住んでいるなら、価格よりスピードと責任軽減を優先する合理的な場面もあります。
問題は、ほかの方法を調べる前から、
「長屋は買取しかありません」
と決められてしまうことです。
🟨 難しい物件の査定では、金額の高さより、調査の深さを見てください。高い査定だけを出して根拠を説明しない会社も、安い査定だけを出して可能性を調べない会社も、慎重に判断する必要があります。
再建築不可長屋の6つの売却・活用方法
方法1|既存住宅として一般市場で売る
建物を利用できる状態で、自己居住やセカンドハウスを考える買主へ販売します。
価格を抑えて自分らしく改修したい層に届く可能性がある一方、融資、建物状態、将来の出口について丁寧な説明が必要です。
方法2|投資家・賃貸オーナーへ売る
既存建物を修繕し、賃貸運用する買主を探します。
表面利回りだけでなく、改修費、空室、維持費、隣戸調整、建物が使えなくなった後の土地価値まで試算できる情報が必要です。
方法3|リノベーション事業者へ売る
古い長屋の空間や地域性を生かす事業者へ届けます。
「昭和レトロ」という言葉だけで欠点を飾るのではなく、構造、防火、用途、工事可能範囲を事前に確認する必要があります。
方法4|隣戸所有者へ提案する
隣戸と一体で管理・利用することで、一般市場とは違う価値が生まれる場合があります。
ただし、他の売却方法と比較できる状態で、相手との関係へ配慮して進めます。
方法5|不動産会社へ買い取ってもらう
現況のまま、比較的短期間で売却できる可能性があります。
買取会社が修繕、保有、再販売、契約上のリスクを負うため、仲介による想定成約価格より低くなるのが一般的です。低い代わりに何を負担しなくてよくなるのかを確認します。
方法6|長屋全体での売却・再生を検討する
他の所有者も売却や活用を考えている場合、複数戸をまとめることで、単独では描けなかった出口が生まれる可能性があります。
ただし、所有者全員の意向、価格、登記、占有、賃貸借、解体・建築条件などの調整が必要です。時間がかかり、合意できない場合もあります。
先に切り離し解体をしてはいけない理由
売却相談では、
「古い部分を壊して、土地として売った方がよいですか」
と聞かれます。
長屋では、特に慎重な判断が必要です。
一戸を解体すると、これまで室内側だった隣戸の壁が外部へ露出する可能性があります。
防水、防火、断熱、構造補強が必要になることがあります。
屋根や基礎が連続していれば、切り離し方法も検討しなければなりません。
境界、所有権、工事中の立入り、足場、騒音、振動、損傷など、隣戸との調整事項も増えます。
さらに、対象敷地が再建築できなければ、既存建物を失った後、住宅として利用する選択肢がなくなる可能性があります。
🟥 長屋の切り離し解体は、片づけの延長ではありません。建築・構造・権利・近隣関係を伴う工事です。売却査定だけを根拠に着手すべきではありません。
明らかな危険がある場合は安全対策を優先しますが、売るための解体であれば、建築士、解体業者、土地家屋調査士、必要に応じて弁護士や行政へ確認し、解体前後の価値を比較して決めます。
リフォームすれば自由に貸せるのか
再建築不可の長屋でも、修繕して使用できる可能性はあります。
しかし、どの工事でも自由に行えるわけではありません。
増築、改築、大規模な修繕・模様替え、用途変更では、工事内容に応じて建築確認や現行規定への適合が問題になる場合があります。
既存不適格建築物については、安全性などを前提に、増改築や大規模修繕時の規制を合理化する制度もあります。ただし、個別建物へどう適用されるかは別途確認が必要です。
また、工事が可能であることと、賃貸住宅として安全に貸せることは同じではありません。
耐震性。
避難。
火災警報器。
電気・ガス・給排水。
雨漏り。
入居者へ説明すべき事項。
投資家へ販売する場合は、家賃の話より前に、建物を安全に使うための調査と改修計画が必要です。
専門家は何を見るのか
| 専門家・窓口 | 主に確認すること |
|---|---|
| 不動産会社 | 市場価格、買主層、販売方法、契約条件、情報開示 |
| 建築士 | 長屋の構造、界壁、改修・切り離しの影響、法適合状況 |
| 名古屋市・確認検査機関 | 道路種別、接道認定・許可、具体的工事の建築手続き |
| 土地家屋調査士 | 境界、接道長さ、建物・土地の表示登記、分筆 |
| 司法書士 | 相続登記、所有権、共有、担保権などの権利登記 |
| 解体・施工業者 | 工法、足場、搬出経路、養生、補修、概算費用 |
| 弁護士 | 隣戸との権利・工事・損害・合意をめぐる法的問題 |
| 税理士 | 譲渡所得、取得費、相続空き家に関する特例の可能性 |
誰か一人の「大丈夫です」で進めるのではなく、質問に合った専門家へ確認します。
売却前に確認したい15項目
- 売主が所有する建物の範囲はどこか
- 長屋全体で一棟登記か、各戸別の登記か
- 建物は共有か、区分所有か、別棟扱いか
- 土地は単独所有、共有、借地のどれか
- 登記面積と現況に違いはないか
- 未登記の増築部分はないか
- 前面通路は建築基準法上の道路か
- 接道長さと境界は確認できるか
- 通行・掘削・配管の権利はどうなっているか
- 建築確認や過去の改修資料は残っているか
- 屋根、柱、梁、界壁、基礎はどうつながっているか
- 雨漏りや傾きの原因をどこまで確認できるか
- 隣戸と共同利用している設備・通路はないか
- 隣戸所有者は今後の売却・修繕をどう考えているか
- 仲介、買取、隣戸提案、全体売却の手取りと期間を比較したか
すべての答えがそろわなければ売却できないわけではありません。
大切なのは、分からないことを「問題なし」と扱わないことです。
査定額ではなく、最終手取り・時間・責任で比べる
「A社は150万円、別の会社は600万円、最終的にはさらに高く売れた」という話は、確かに目を引きます。
しかし、物件資料や成約根拠を示さず数字だけを並べれば、読者へ誤った期待を与える可能性があります。
再建築不可長屋の価格は、立地だけでなく、建物状態、権利、改修費、融資、隣戸関係によって大きく変わります。
そのため本当に比較すべきなのは、次の項目です。
| 比較項目 | 一般仲介 | 投資家向け販売 | 業者買取 | 隣戸提案 |
|---|---|---|---|---|
| 想定売却価格 | 市場反応で変動 | 収益性で変動 | リスクを差し引く | 一体利用価値で変動 |
| 売却期間 | 長期化の可能性 | 買主層が限定 | 比較的短い | 交渉次第 |
| 建物調査 | 詳細説明が必要 | 改修収支に直結 | 買主調査中心の場合あり | 双方で確認 |
| 残置物 | 原則整理を求められる場合 | 条件調整 | 現況対応の可能性 | 条件調整 |
| 売主の責任 | 契約内容による | 契約内容による | 限定できる場合 | 契約内容による |
| 将来の近隣関係 | 買主へ引継ぎ | 買主へ引継ぎ | 買主へ引継ぎ | 一体管理の可能性 |
| 最終手取り | 費用控除後で比較 | 改修条件も影響 | 免除される負担も換算 | 測量・調整費も考慮 |
🟩 売主利益の最大化とは、最も大きな数字を掲げた査定書を選ぶことではありません。費用、期間、売却後の責任、近隣への影響を差し引いた後に、納得できる出口を選ぶことです。
契約の日、売主様が隣戸所有者へ渡したもの
契約当日、売主様は小さな封筒を持ってきました。
中には、昔撮った長屋の写真が数枚入っていました。
新築当時と思われる白黒写真。
玄関前に家族が並ぶ写真。
隣戸との間に、今はない木の柵が写った写真。
売主様は、買主となった隣戸所有者へその写真を渡しました。
「建築の資料にはならないと思いますが、昔はこうだったようです」
隣戸所有者は写真を見ながら、
「うちの親も写っています」
と言いました。
そこで初めて、二つの家の記憶が一枚の写真につながっていたことが分かりました。
不動産会社として扱うのは、土地、建物、価格、契約です。
しかし長屋には、壁だけではなく、家族同士の時間までつながっていることがあります。
もちろん、思い出があるから高く売れるわけではありません。
感情で建物の危険を軽く扱うこともできません。
それでも、売主様にとっては「価値のない家を処分した」のではなく、事情を知る人へ引き継げたという実感が残りました。
「父の家が、壁の向こうへ続いていくみたいですね」
その言葉を聞いたとき、私は今回の買主探しの意味をようやく理解しました。
よくある質問|再建築不可長屋の売却
再建築不可の長屋でも売却できますか
売却できる可能性はあります。
ただし、一般の戸建てより買主が限定されやすく、価格も低くなる傾向があります。既存建物を利用できる個人、投資家、事業者、隣戸所有者など、物件に合った買主へ必要情報を届けることが重要です。
長屋の一戸だけを自由に売れますか
売却できる権利の範囲は、建物・土地の登記と契約関係によって異なります。
一戸分が独立した所有権なのか、建物全体の共有持分なのか、土地が借地・共有なのかを確認します。共有物全体を売る場合と、自分の持分だけを売る場合も同じではありません。
隣戸の同意がなければ売れませんか
売却自体に必要な同意は、所有形態や権利関係によって異なります。
一方、切り離し解体、共有部分の変更、隣地への立入り、構造へ影響する工事などでは、隣戸との協議や法的確認が必要になる場合があります。売買と工事を分けて考える必要があります。
再建築不可長屋は住宅ローンを使えますか
金融機関と物件ごとに判断が異なります。
再建築性、建物状態、土地・建物の権利関係から、担保評価が難しくなることがあります。買主が現金、事業性融資、別担保などを検討する場合もありますが、融資を利用できると売主側から保証はできません。
リフォームして賃貸にできますか
建物状態、工事内容、法適合状況、用途などによります。
長屋では対象住戸だけでなく、界壁、屋根、構造、防火、避難、隣戸への影響も確認します。購入前に建築士や施工会社へ相談し、必要に応じて行政・確認検査機関へ確認してください。
長屋を一戸だけ解体できますか
技術的・法的に検討できる場合はありますが、簡単に断定できません。
柱、梁、屋根、基礎、壁のつながり、登記、境界、隣戸への影響、工事方法などを確認します。解体後に対象土地を再建築できない可能性もあるため、売却前の解体は特に慎重に判断します。
隣戸へ最初に相談するべきですか
有力な選択肢になる場合がありますが、最初から隣戸だけに絞る必要はありません。
他の販売方法や買取条件を把握したうえで、売主様の了承と近隣関係への配慮をもって提案することが大切です。
まとめ|建て替えできない家に買主が見つかった本当の理由
名古屋市中村区にあった、再建築が難しい可能性を抱える築古長屋。
雨漏りがあり、築年数を裏付ける資料も十分ではありませんでした。
最初は投資家向けに、立地、家賃、利回りを中心に販売しました。
しかし、買主候補は離れました。
長屋で本当に問題になる、構造のつながりと隣戸調整を、判断できる形で示せていなかったからです。
そこで、対象住戸だけでなく、長屋全体との関係を調べ直しました。
登記。
道路。
接道。
界壁。
屋根。
雨漏り。
隣戸の意向。
その過程で、想定外の買主候補が壁の向こう側にいることが分かりました。
この家が売れた理由は、問題がなくなったからではありません。
問題がどこにあり、誰と調整し、何を専門家へ確認すべきかが見えるようになったからです。
🟥 再建築不可の長屋を、普通の戸建てと同じように売ることはできません。
🟩 しかし、長屋だからこそ価値を感じる相手へ、建物のつながりとリスクを正直に伝えて届けることはできます。
本当に売れない家なのか。
まだ権利関係が調べられていない家なのか。
まだ改修費が見えていない家なのか。
まだ隣戸と話せていない家なのか。
まだ、その建物の使い方を描ける人へ届いていないだけなのか。
同じ「売れない」でも、中身は違います。
私がこの売却で学んだのは、不動産会社の仕事は欠点を別の言葉で飾ることではないということです。
難しさを分解する。
分からないことを認める。
専門家の見方を集める。
買主を変えて考える。
そして、売主様と買主様が、それぞれ納得して判断できる材料を置く。
それが、再建築不可長屋の売却で必要な仕事だと考えています。
名古屋市中村区で再建築不可長屋・相続空き家を所有している方へ
ふどうさんのMAGOは、名古屋市南区を拠点に、中村区を含む名古屋市内の再建築が難しい可能性のある住宅、築古長屋、連棟住宅、接道不足、相続空き家、共有不動産などの売却をお手伝いしています。
次のような段階でも構いません。
- 再建築不可だから売れないと言われた
- 長屋の一戸だけを相続したが、権利関係が分からない
- 建物全体が一棟登記か、各戸別か確認できていない
- 土地が共有・借地になっている
- 隣戸と屋根や壁がつながり、修繕方法が分からない
- 雨漏りや傾きがあり、一般の買主には難しいと言われた
- 切り離し解体してから売るべきか迷っている
- 投資家向け査定と買取価格の差が大きい
- 隣戸へ相談したいが、関係を悪くしたくない
- 県外に住み、空き家の管理ができない
- 他社で長期間売却しているが、値下げ以外の提案がない
最初から「売れる」「売れない」と断定することはできません。
まず、売主様が所有している範囲を確認します。
そのうえで、道路、接道、土地・建物登記、建物のつながり、改修、隣戸関係、想定買主を整理し、仲介、買取、投資家向け販売、隣戸提案、長屋全体での売却可能性を比較します。
「価値がない」と決める前に、まだ調べられていない関係と、まだ届いていない買主がいないか、一緒に確認してみませんか。
対応エリア
名古屋市中村区・南区・西区・中区・中川区・熱田区・港区・瑞穂区・昭和区・天白区・緑区・千種区・名東区・守山区をはじめ、名古屋市全域および愛知県内に対応しています。
※再建築の可否、接道認定・許可、改修、用途変更、長屋の切り離し解体、一体利用の可否は、道路種別、敷地、建物構造、所有・登記形態、具体的な工事・建築計画および関係法令によって異なります。不動産会社の目視だけで断定せず、必要に応じて名古屋市、指定確認検査機関、建築士、土地家屋調査士、弁護士、司法書士などへご確認ください。
※相続した空き家の売却では、一定の要件を満たす場合に譲渡所得の特別控除を利用できる可能性があります。建築時期、相続後の利用、耐震改修・解体、譲渡時期などの要件があるため、契約や工事の前に税務署または税理士へご相談ください。
※本記事は令和8年9月時点の公表情報と実務経験をもとに作成しています。本文の事例は、相談者様および物件を特定できないよう、所在地、築年数、価格、期間、会話、経緯などの一部を調整しています。
参考にした公的情報
- 名古屋市「接道許可(建築基準法第43条)」
- 名古屋市「建築基準法上の道路について」
- 名古屋市「敷地と道路との大切な関係」
- 名古屋市「古民家宿 菊の屋」
- 名古屋市「なごや耐震アドバイザー派遣制度」
- 国土交通省「既存建築ストックの長寿命化に向けた規定の合理化」
- 国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」


