はじめに|「この長屋、解体できないですよね?」
「父から相続した長屋なのですが、売れるのでしょうか」
最初のお問い合わせは、その一言から始まりました。
物件は、名古屋市中村区にある古い長屋です。
正確な建築年月日は分かりませんでしたが、築後60年以上が経過していると思われる木造建物でした。
ご両親が亡くなられた後は誰も住まず、空き家になって数年。屋根や外壁の劣化が進み、室内には家財も残されていました。
そして、一般的な空き家とは異なる大きな問題がありました。
隣家と屋根や壁がつながっていたのです。
いわゆる「長屋」「連棟式建物」と呼ばれる不動産です。
相談者様は、すでに数社の不動産会社へ査定を依頼されていました。
返ってきた答えは、ほぼ同じだったそうです。
「長屋なので難しいですね」
「隣とつながっているため、解体できないと思います」
「価格はあまり期待しない方がよいでしょう」
提示された査定額は200万円前後。
相談者様が想像していた金額を大きく下回っていました。
しかし、私たちが現地と権利関係を調べ、購入者を変えて販売した結果、最終的に約650万円での売却につながりました。
建物を全面的に改修したわけではありません。
隣家を一緒に買い取ったわけでもありません。
変えたのは、「この長屋を誰に売るのか」という販売の視点です。
※本記事は実際の相談・売却実務をもとに、所有者や物件を特定できないよう所在地、価格、建物状況等の一部を調整して構成しています。
名古屋市中村区に今も残る長屋・連棟式建物
長屋とは、複数の住戸が壁や屋根などの一部を共有し、横につながって建てられた形式の建物です。
外から見ると一棟の建物に見えても、内部は住戸ごとに分かれ、それぞれに玄関や生活設備が設けられています。
登記の方法も一様ではありません。
- 住戸ごとに独立した建物として登記されている
- 一棟の建物を複数人で共有している
- 区分建物として登記されている
- 増改築部分が未登記になっている
- 登記上の形状と現況が一致していない
この違いによって、売却や解体の進め方も変わります。
名古屋市中村区には、昔から住宅、商店、町工場などが混在してきた地域があります。細い路地や間口の狭い敷地に建てられた長屋も、現在まで残っています。
私は名古屋の街を歩き、不動産を見続けて8年になります。
中村区の路地を歩くと、同じ屋根の下に複数の玄関が並び、雨どい、軒先、外壁が隣家へ連続している建物を見かけます。
古いから残っているだけではありません。
そこで暮らした家族と、隣家との長い関係があったからこそ、今まで建物が維持されてきたのだと思います。
長屋は「建物」だけを見ても分からない
一般的な戸建住宅であれば、敷地、建物、道路、設備などを調査して売却を進めます。
しかし、長屋ではそれだけでは足りません。
私が現場で特に確認するのは、次のような部分です。
- 屋根はどこまで連続しているか
- 柱や梁を共有している可能性があるか
- 境となる壁は誰の所有物か
- 雨どいはどちらの住戸へ排水しているか
- 電気・水道・ガス管は独立しているか
- 隣家を通る配管がないか
- 建物の境界と土地境界が一致しているか
- 増築部分や未登記部分がないか
- 過去に一部だけ切り離された形跡がないか
- 隣家の所有者と連絡を取れるか
長屋は、建物だけで完結する不動産ではありません。
隣家との物理的なつながりと、長年の関係性まで含めて調査する不動産です。
これが、一般的な空き家より売却に時間と経験を要する理由です。
長屋の売却が難しい5つの理由
1.隣家と壁・屋根・構造部分がつながっている
長屋は、隣家と壁だけでなく、屋根、柱、梁、基礎などが連続している可能性があります。
自分の住戸部分だけを解体すると、隣家の構造、防水、防火性能などに影響を与えることがあります。
2.登記と現況が一致していないことがある
築年数の古い長屋では、増築部分が未登記だったり、建物の種類や床面積が現況と異なったりすることがあります。
土地と建物の名義人が異なるケースにも注意が必要です。
3.接道条件を満たしていない可能性がある
長屋を一部解体した後、残った敷地が建築基準法上の道路に必要な長さで接していなければ、再建築が難しくなることがあります。
ただし、長屋だから必ず再建築不可というわけではありません。道路の種類、接道長さ、敷地形状、建築時の経緯などを個別に確認する必要があります。
4.住宅ローンを利用しにくい場合がある
築年数、建物の状態、再建築の可否、登記内容などによっては、金融機関の担保評価が低くなり、一般の住宅ローンを利用しにくいことがあります。
5.購入後の活用方法を想像しにくい
一般の購入希望者にとっては、
「修理にいくらかかるのか」
「隣家とのトラブルはないのか」
「将来、建て替えられるのか」
といった不安が先に立ちます。
必要な調査や説明が不足すると、物件の価値を検討する前に候補から外されてしまいます。
「長屋だから解体できない」は正確ではない
相談者様は、他社から「長屋なので解体できません」と説明されていました。
しかし、正確には、
「長屋は、一般的な戸建住宅のように自由な方法で解体できるとは限らない」
ということです。
所有関係や構造、工事方法によっては、一戸分だけを切り離して解体できる場合もあります。
ただし、次のような確認が必要です。
- 解体する建物部分の所有権
- 隣家との共有部分の有無
- 建物登記の状態
- 柱・梁・屋根・基礎の構造
- 切り離し後の隣家の安全性
- 隣家側に必要となる外壁・防水・補強工事
- 境界線と建物位置
- 工事車両や足場の進入経路
- 接道条件と再建築の可否
- アスベストの事前調査
- 行政上必要となる届出
切り離し工事が隣家の建物や共有部分に影響する場合は、隣家所有者との事前協議や合意が重要になります。
したがって、「必ず解体できない」とも「自分の所有部分だから自由に解体できる」とも断定できません。
「解体して更地にすれば売れる」が危険な理由
古い空き家を売却するとき、
「先に建物を解体して、きれいな更地にした方が売りやすい」
と考える方は少なくありません。
一般的な戸建住宅なら、有効な方法になることもあります。
しかし、長屋では解体を先行させることが、かえって売却を難しくする場合があります。
解体費用が想定以上になる
長屋の切り離し解体では、通常の解体費用に加えて、次の工事が必要になる可能性があります。
- 隣家側の外壁新設
- 屋根や軒先の補修
- 防水・雨仕舞工事
- 柱や梁の補強
- 雨どいの移設
- 配管・配線の切り分け
- 仮設足場や養生
- 狭い路地での手作業解体
隣家へ損害を与えた場合の補修リスクも考えなければなりません。
解体後も再建築できるとは限らない
更地にしてから接道条件を満たしていないことが判明しても、建物を元に戻すことはできません。
長屋の一部を解体する前に、対象敷地単独での再建築の可否を確認する必要があります。
建物付きだから購入する人もいる
投資家やリノベーション事業者は、既存建物の間取り、構造、賃貸可能性を見て購入を判断します。
売主が費用をかけて解体するより、現状のまま売却し、買主が目的に応じて改修や解体を行った方が合理的な場合があります。
現地で聞こえた「長屋の声」
今回の物件を初めて確認した日は、雨上がりでした。
玄関を開けると、湿った畳のにおいが残っていました。
天井には雨漏りの跡があり、壁紙は変色。流し台や浴室も、そのまま使用できる状態ではありませんでした。
室内だけを見れば、「解体するしかない」と判断したくなる建物です。
しかし、外へ出て路地からもう一度建物を見たとき、別の可能性を感じました。
複数の玄関が並ぶ屋根。
隣家まで続く軒先。
細い路地の先にある生活道路。
長屋は傷んでいましたが、周辺の暮らしの中には、まだ建物が存在していました。
名古屋街歩きを8年間続けてきて感じるのは、古い不動産の価値は、室内だけでは分からないということです。
路地をどのような人が歩いているか。
駅までどの道を使うか。
近くにどのような住宅や店舗があるか。
周辺で改修された古家があるか。
車を持たない入居者の需要があるか。
現場を歩くと、査定書の数字だけでは見えない「使い方」が見えてきます。
売主様の本当の悩みは売却価格だけではなかった
相談者様が困っていたのは、査定額の低さだけではありませんでした。
誰も住まない建物にも、毎年固定資産税がかかります。
庭や建物の管理も必要です。
台風や大雨の後には、
「屋根が飛んでいないだろうか」
「隣家へ雨水が入っていないだろうか」
「建物の一部が落下していないだろうか」
と心配になります。
相続した家には、ご両親との思い出があります。
一方で、空き家を持ち続ける責任もあります。
「高く売りたい」というより、
「隣の方へ迷惑をかける前に、きちんと引き継げる人を見つけたい」
それが、相談者様の本当の希望でした。
私たちが最初に行った長屋の調査
今回、すぐに販売広告を出すことはしませんでした。
最初に、次の事項を確認しました。
権利関係
- 土地と建物の登記事項
- 所有者と相続登記
- 共有持分の有無
- 未登記部分の可能性
- 土地境界に関する資料
建物の状態
- 隣家と連続する屋根・外壁
- 柱・梁など構造部分の状況
- 雨漏りと腐食
- 給排水設備
- 増改築の履歴
- 残置物の量
法令・道路関係
- 建築基準法上の道路種別
- 接道長さ
- 再建築の可能性
- 用途地域等の都市計画
- 解体時に必要となる手続き
隣家との関係
- 隣家所有者の確認
- 過去の補修・切り離し工事
- 共有部分に関する認識
- 配管・雨どいなどの利用状況
- 売却または工事に対する意向
長屋の売却では、分からないことを「問題」と決めつけるのではなく、一つずつ調べて、分かる状態に変えることが重要です。
長屋を売却できた最大の理由は「買主を変えたこと」
今回の物件を、一般的なマイホーム購入者だけに販売しても、成約は難しかったと思います。
そこで、最初から購入対象を変えました。
想定したのは、次のような買主です。
- 古い住宅を扱った経験がある不動産投資家
- 賃貸住宅としての再生を検討する人
- 長屋・古家のリノベーション事業者
- 近隣で不動産を所有している事業者
- 建物の現状を理解して購入できる現金購入者
- 隣接地の所有者や周辺関係者
一般の方にとっては、雨漏りや古い設備は大きな欠点です。
しかし、改修を前提とする事業者は、
- 取得価格
- 改修費用
- 想定賃料
- 入居者需要
- 将来の出口
- 土地としての可能性
を数字で判断します。
「古いから買わない」のではなく、「改修費を含めても事業として成立するか」を考えるのです。
買主が見ていたのは築年数ではなかった
購入希望者が現地で確認していたのは、建物の新しさではありませんでした。
- 最寄り駅までの距離
- 周辺の賃貸需要
- 路地の幅と工事のしやすさ
- 間取りを変更できる可能性
- 隣家との接続状態
- 雨漏りの原因
- 配管を独立させられるか
- 取得費と改修費の合計
- 将来的な売却可能性
つまり、「築60年以上の古い長屋」ではなく、「中村区で再生できる可能性のある不動産」として見ていました。
売主と買主が見ていた建物は同じです。
しかし、見ている価値が違っていたのです。
再建築不可は「価値ゼロ」ではなく「購入者が変わる」
長屋の相談では、再建築不可が問題になることがあります。
再建築できない不動産は、一般の住宅ローンを利用しにくく、将来の建て替えも制限されます。
そのため、再建築できる土地と同じ価格では売れないことが一般的です。
しかし、
「再建築不可だから売れない」
とは限りません。
より正確には、
「再建築不可になると、購入できる人と価格の考え方が変わる」
ということです。
既存建物を維持・改修して使用する人、賃貸運用を考える投資家、近隣所有者などが買主候補になることがあります。
重要なのは、再建築できない事実を隠すことではありません。
道路、接道、建築上の制限を調査し、買主が理解できるように説明したうえで販売することです。
「建物価値ゼロ」と「不動産価値ゼロ」は違う
古い長屋の査定では、
「建物の価値はゼロです」
と言われることがあります。
建物の経年や状態から見て、積算上の建物価値がほとんど残っていないことはあります。
しかし、それだけで不動産全体の価値がゼロになるわけではありません。
不動産には、複数の価値があります。
- 土地としての価値
- 立地の価値
- 使用できる価値
- 賃料を生む収益価値
- 隣接地と一体利用できる価値
- 改修して再生できる価値
建物評価がゼロでも、利用価値や収益価値が残っている場合があります。
長屋の査定では、「古い建物をいくらと評価するか」だけでなく、「誰が、どのように使えるか」を考える必要があります。
査定200万円と650万円の差はどこから生まれたのか
今回の査定方法を整理すると、考え方は大きく二つに分かれました。
最初の査定
- 築年数が古い
- 長屋である
- 雨漏りがある
- 単独解体が難しい
- 住宅ローンを利用しにくい
結果:査定額約200万円
調査後の査定・販売
- 名古屋市中村区の立地
- 土地としての価値
- 賃貸・投資需要
- 現況利用の可能性
- リノベーションの可能性
- 隣家との接続状況
- 現金購入者への販売
結果:成約価格約650万円
同じ不動産です。
建物を新しくしたわけではありません。
雨漏りを完全に直してから販売したわけでもありません。
変えたのは、不動産の見方、調査内容、説明方法、そして販売する相手でした。
長屋の売却でやってはいけないこと
調査前に解体契約を結ぶ
構造、所有関係、隣家への影響、再建築の可否を確認する前に解体を決めると、工事が進められなかったり、追加費用が発生したりする可能性があります。
隣家へ相談せず工事を進める
法的な同意の要否とは別に、長屋の切り離し工事は隣家へ影響する可能性があります。工事内容と補修方法を事前に説明することが、トラブル防止につながります。
家財をすべて処分してから査定する
残置物がある状態でも購入する事業者は存在します。処分費用をかける前に、現況での売却価格と比較することが大切です。
一社の査定だけで価値を決める
長屋の査定は、取扱経験と想定する買主によって差が生じやすい分野です。査定額だけでなく、その根拠と販売方法を確認してください。
不具合や再建築の問題を隠す
雨漏り、傾き、配管、隣家との共有部分、再建築の可否など、把握している事項は正確に説明する必要があります。
問題を隠すのではなく、問題を理解できる買主へ販売することが重要です。
長屋の解体には行政上の手続きも必要
長屋を含む建築物を解体する場合、工事の規模や内容に応じて届出・調査が必要になります。
名古屋市では、10平方メートルを超える建築物を除却する場合、原則として建築物除却届などが必要です。
また、床面積の合計が80平方メートル以上の建築物解体工事では、一定の要件に該当すると建設リサイクル法に基づく届出が必要になります。
建物の解体・改修工事では、石綿(アスベスト)の事前調査も必要です。調査結果や使用建材によっては、報告や除去作業に関する届出が必要になる場合があります。
古い長屋では、建築時期や使用建材が分からないことも多いため、解体費だけでなく、調査費、切り離し工事、隣家側の補修費なども確認する必要があります。
長屋売却の流れ
長屋・連棟式建物の売却は、一般的に次の順序で進めます。
- 土地・建物の登記事項を確認する
- 相続登記の状況を確認する
- 建物の接続部分と現況を調査する
- 道路・接道・再建築の可否を確認する
- 未登記部分や増築履歴を確認する
- 隣家所有者と必要な協議を行う
- 現況売却と解体後売却を比較する
- 投資家・事業者・近隣所有者を含めて買主を探す
- 不具合や法令制限を契約書へ明記する
- 引渡し条件と責任範囲を明確にする
物件によっては、建築士、土地家屋調査士、司法書士、解体業者、弁護士などとの連携が必要になります。
名古屋街歩き8年で感じる「長屋の本当の価値」
名古屋の街を歩き続けて8年。
長屋を見るとき、私は建物だけを見ていません。
路地の幅。
駅までの道。
近所の商店。
自転車の置き方。
軒先に残る植木鉢。
隣家との距離。
夕方に灯る窓。
こうした日常の風景から、その場所でどのような暮らしができるのかを考えます。
図面上では評価しにくい古い長屋でも、現地を歩くと、賃貸住宅、小さな仕事場、アトリエ、倉庫など、別の使い方が見えてくることがあります。
もちろん、すべての長屋に価値が残っているとは限りません。
建物の状態、接道、権利関係、隣家との関係によっては、売却が非常に難しい場合もあります。
それでも、調査する前から「長屋だから売れない」と決めることはできません。
机上査定だけでは拾えない価値を、現地で探す。
それが、街を歩いて不動産を見る意味だと感じています。
まとめ|「売れない長屋」ではなく「売り方が難しい長屋」
今回の相続空き家は、
「長屋だから難しい」
「解体できない」
「価格は期待できない」
と言われていました。
しかし、権利関係、道路、建物の接続状況、地域需要を調査し、一般の住宅購入者とは異なる買主へ販売したことで、売却につながりました。
長屋売却で重要なのは、次の5点です。
- 長屋の構造と登記を確認する
- 単独解体の可否と隣家への影響を調べる
- 再建築の可否を確認する
- 解体前に現況売却の可能性を検討する
- 長屋を活用できる買主へ情報を届ける
長屋だから価値がないのではありません。
再建築できないから必ず売れないわけでもありません。
「売れない長屋」ではなく、「調査と売り方に経験が必要な長屋」なのです。
名古屋市中村区・中川区で長屋や相続空き家の売却をご検討の方へ
古い長屋を相続した。
隣家と壁や屋根がつながっている。
解体できないと言われた。
再建築不可の可能性がある。
雨漏りや残置物がある。
他社から売却を断られた。
このような不動産でも、現況のまま売却できる可能性があります。
ふどうさんのMAGOでは、名古屋市を中心に、長屋・連棟式建物、相続空き家、再建築不可物件、共有不動産、狭小地、未接道地など、一般的な売却方法では調整が難しい不動産の相談を承っています。
「売れるか、売れないか」を決める前に、まずは建物、土地、道路、隣家との関係を調べることが大切です。
名古屋の街を歩き、不動産を見続けてきた実務経験をもとに、その物件を必要とする買主と売却方法を一緒に考えます。
主な対応地域
名古屋市中村区、中川区、南区、港区、緑区、熱田区、瑞穂区、昭和区、千種区、名東区、守山区、天白区、中区をはじめ、愛知県内各地域
※本記事は一般的な情報および当社の実務経験をもとに構成しています。長屋の切り離し解体、再建築の可否、必要となる隣家との協議、届出および工事方法は、建物の構造、権利関係、敷地、道路等によって異なります。実際の売却・解体にあたっては、行政および建築士、土地家屋調査士、司法書士、解体業者等へ個別にご確認ください。


