土地価格を下げた「容疑者」は、大谷石擁壁だった
こんにちは。
趣味は街歩き。名古屋市の街を歩き続けて8年になる、空き家が大好きな宅建士、ふどうさんのMAGOの保木です。
「正直に申し上げると、この擁壁がある以上、高値での売却は難しいと思います」
相談者様が、最初に査定を依頼した不動産会社から言われた言葉です。
物件は、名古屋市千種区東山エリアにある相続不動産でした。
地下鉄東山線を利用しやすい住宅地。
土地は約85坪。
敷地の奥には、ご両親が50年以上暮らした木造住宅が残っていました。
土地の広さ。
日当たり。
落ち着いた周辺環境。
交通の利便性。
東山で注文住宅用地を探している方にとって、検討余地のある土地でした。
ところが、査定の話になると、一つの問題ばかりが注目されました。
道路と敷地の間にある、築造時期や構造資料が明確ではない古い大谷石の擁壁です。
相談者様が複数の不動産会社へ相談すると、似たような説明が返ってきました。
- 擁壁が老朽化している可能性がある
- 建て替え時に全面的な造り直しが必要かもしれない
- 工事費がいくらになるか分からない
- 建築会社や金融機関が慎重になる
- 一般の購入者へ説明しづらい
- 高低差があるため買主が限られる
提示された査定額は、4,200万円から4,500万円前後でした。
決して小さな金額ではありません。
しかし、相談者様には引っかかるものがありました。
「東山で85坪ある土地でも、擁壁一つでそこまで下がるのでしょうか」
もっともな疑問です。
ただ、私も最初に現地へ着いたとき、道路側に立つ大谷石を見て、簡単な土地ではないと感じました。
石の表面には年月の経過が見えました。
築造時の図面は見つかっていません。
見た目だけで「問題ありません」と言える状態でもありませんでした。
それでも、敷地の奥まで歩いたとき、先に出ていた査定額にも違和感を持ちました。
日当たりがあり、奥行きもある。
周辺には、手入れされた戸建住宅が並んでいる。
そして何より、ここは千種区東山です。
🟨 この土地で調べるべきなのは、擁壁があるから何割下げるかではありません。何が確認でき、何が未確認で、その条件を踏まえて誰が購入を検討できるかでした。
この記事は、「古い擁壁があっても必ず高く売れる」という話ではありません。
実際に購入を見送った方もいました。
最後まで確認できなかったこともありました。
それでも、最初の低い評価だけで売却を決めず、調査と販売方法を変えたことで、最終的に6,020万円で成約したモデルケースをお話しします。
※本記事は、実際に寄せられる相談や売却実務をもとに再構成しています。所在地、面積、価格、時期、会話、経緯などは、相談者様および物件を特定できないよう一部調整しています。
相続後、「思い出のある実家」が管理する不動産へ変わった
相談者様は、愛知県外にお住まいでした。
ご両親が亡くなられた後、ご実家を相続しましたが、ご自身やお子様が住む予定はありませんでした。
相続した直後は、すぐに売ろうとは考えなかったそうです。
「父も母も長く暮らした家なので、急いで手放すのは違う気がしました」
室内には、ご両親の家具や食器が残っていました。
庭には、お父様が手入れしていた植木がありました。
相談者様にとっては、不動産というより、まだ実家だったのです。
しかし、誰も住んでいない家にも時間は流れます。
- 固定資産税・都市計画税
- 火災保険料
- 庭木や雑草の管理
- 建物の換気や清掃
- 雨漏りや外壁の点検
- 台風や大雨後の現地確認
- 近隣から連絡が入った場合の対応
県外から名古屋へ戻るたび、交通費と時間もかかります。
最初は年に何度か戻っていたものの、次第に訪問の間隔が空きました。
庭木が伸びているのを見ると、管理できていない罪悪感を覚える。
建物へ入ると、ご両親の生活がそのまま残っている。
片づけようと思っても、何を残し、何を処分すればよいのか決められない。
数年たったころ、相談者様はこう感じたそうです。
「残しているつもりでしたが、実際には何も決められず、時間だけが過ぎていました」
そこで、売却を検討することになりました。
千種区東山は、高低差も街の一部になっている
東山周辺を歩くと、平坦な土地ばかりではないことが分かります。
坂道。
道路より高い敷地。
石積みやコンクリート擁壁。
階段を上がった先に玄関がある住宅。
丘陵地の地形に合わせて形成された住宅地では、高低差が街並みの一部になっています。
高低差のある土地には、もちろん注意点があります。
造成や擁壁の状態。
駐車場のつくり方。
解体・建築時の重機や資材の搬入。
排水。
建物の基礎計画。
平坦地より確認事項が増え、工事費が上がる場合もあります。
一方で、土地によっては次のような特徴が評価されます。
- 道路からの視線を避けやすい
- 光や風を取り込みやすい
- 高台側の眺望を生かせる
- 建物や外構に変化をつけられる
- 周辺の落ち着いた街並みに合う
つまり、東山の土地を査定するとき、平坦な整形地から機械的に減点するだけでは十分ではありません。
🟨 高低差は、費用が増える原因になる一方、設計によっては住環境の魅力にもなります。どちらになるかは、土地だけでなく、買主が何を建てるかによって変わります。
現地で最初に目に入った、古い大谷石
道路から敷地を見ると、大谷石の石積みが強い存在感を放っていました。
年月を重ねた石の色合いには趣があり、周辺の落ち着いた住宅地にもなじんでいます。
しかし、購入を検討する方が不安を感じる外観でもありました。
このまま使えるのか。
建て替え時に、すべて撤去する必要があるのか。
数百万円、あるいはそれ以上の工事費が必要になるのか。
このように考えるのは当然です。
ただし、現場では最初に確認しなければならないことがあります。
目に見える大谷石が、何なのかという点です。
- 土圧を受ける擁壁本体なのか
- 別の構造体の表面へ使われた化粧材なのか
- 土を支えていない塀なのか
- 後から増し積み・補修された部分なのか
- 隣地や道路側の工作物を含んでいるのか
外観だけでは判断できない場合があります。
「大谷石が見える」という事実と、「擁壁の構造が確認できた」という事実は同じではありません。
大谷石だから危険、大谷石だから安全とは言えない
大谷石は加工しやすく、独特の温かみを持つ石材です。
昭和期の住宅地では、門柱、塀、外壁、石蔵などに使われてきました。土地の高低差部分で、土を支える工作物として使われている例も見かけます。
長期間屋外に設置された石材には、環境や施工状態によって、表面の風化、欠損、目地の開きなどが生じる場合があります。
しかし、石の名称と築年数だけで、安全性を判断することはできません。
擁壁の検討では、少なくとも次の要素が関係します。
- 高さと延長
- 支えている土の高さ
- 構造と施工方法
- 基礎
- 築造時期
- 許可・確認・検査に関する資料
- 傾き、はらみ出し、ずれ
- 亀裂、目地の開き、石材の欠損
- 水抜き穴と排水状況
- 背面土の状態
- 擁壁上部の沈下や亀裂
- 建物との距離
- 過去の補修や増し積み
- 道路・隣地・境界との位置関係
不動産会社が現地で、外観上の変状を確認することはできます。
しかし、石の裏側、基礎、背面土、地中の排水まで目視することはできません。
今回も、大きな崩落や著しいはらみ出しが見えたわけではありませんでした。
ただし、それは「安全が証明された」という意味ではありません。
🟥 古い大谷石だから危険と断定することも、長年立っているから問題ないと判断することも適切ではありません。
必要に応じて、行政資料を調べ、建築士、構造・造成の専門家、施工会社などへ確認する必要があります。
査定額を下げていたのは、擁壁より「分からない工事費」だった
擁壁付き土地が低く査定される理由は、必ずしも危険が確認されたからではありません。
査定する側が、購入後に発生する費用を読めないからです。
仮に擁壁の補修・補強・再築が必要になれば、工事費は次の条件で大きく変わります。
- 擁壁の高さと長さ
- 撤去する範囲
- 工事車両や重機が入れるか
- 道路使用・交通誘導が必要か
- 土砂や資材を置く場所があるか
- 隣地へ協力を求める必要があるか
- 既存建物を残すか、解体するか
- 地盤や地下水の状態
- 新築建物の位置、基礎、重量
- 駐車場や階段の計画
- 現在の法令や行政協議
建築計画が決まっていない段階では、工事内容も決まりません。
それでも買取会社は、購入価格を提示しなければなりません。
分からない費用。
工期の遅れ。
再販売までの保有費。
金融機関の評価。
売れなかった場合のリスク。
それらを大きめに見込めば、査定額は下がります。
これは、必ずしも悪意のある査定ではありません。
買取会社が自らリスクを引き受ける以上、慎重な価格になるのは自然です。
問題は、その買取価格を、一般市場における土地価値そのものだと思い込んでしまうことです。
🟨 擁壁が価格を下げたというより、何を直すのか、いくらかかるのか、誰が負担するのかが分からない状態が価格を下げていました。
最初の査定は、全面的な擁壁再築を前提にしていた
最初に提示された4,200万円前後の査定内容を整理すると、概ね次のような考え方でした。
東山周辺の土地相場から、整形地としての価格を計算する。
そこから、
- 古家の解体費
- 高低差による工事費
- 大谷石擁壁の撤去・再築費
- 再販売リスク
- 利益と保有費
を差し引く。
計算方法として理解できる面はあります。
しかし、ここには一つ大きな仮定がありました。
既存擁壁を全面的に撤去し、造り直す必要があるという仮定です。
ところが、その時点では、買主がどの位置に、どの規模の建物を建てるか決まっていません。
駐車場をどこにつくるかも決まっていません。
既存擁壁を利用できるのか、補修で対応できるのか、部分的な更新になるのか、全面更新になるのかも判断されていませんでした。
最大の工事を前提にすれば、当然、土地価格は低くなります。
しかし、その工事が本当に必要かどうかは、査定時点では確定していなかったのです。
私たちも、最初から正解が分かっていたわけではない
ここは、きれいな成功談にしたくない部分です。
私たちも現地を見た直後から、6,020万円で売れると分かっていたわけではありません。
擁壁の詳細資料は不足していました。
古い建物も残っていました。
買主の建築計画によっては、多額の工事費が発生する可能性もありました。
そして、東山という立地がよくても、購入希望者全員が高低差のある土地を受け入れるわけではありません。
最初に考えたのは、高い査定額をつくることではなく、価格を考える前提をそろえることでした。
土地の基本条件
- 登記事項証明書
- 公図、地積測量図等
- 接道状況
- 用途地域
- 建ぺい率・容積率
- 高度地区その他の建築制限
- 上下水道、ガス等
- ハザード情報
- 周辺の売出事例と成約事例
擁壁と高低差
- 高さと延長
- 道路との高低差
- 外観上確認できる変状
- 水抜き穴と排水経路
- 増し積みや補修の形跡
- 行政で確認できる資料
- 建物、境界、隣地との位置関係
- 解体・新築時に考えられる課題
市場と買主
- 東山周辺で土地を探している層
- 85坪を一体利用する需要
- 注文住宅会社・設計事務所の見方
- 高低差を前提に設計できる買主層
- 現況売却と事業者買取の条件差
調査の目的は、擁壁を「安全です」と証明することではありません。
現時点で確認できること。
確認できないこと。
買主の建築計画がなければ決められないこと。
この三つを分けることでした。
1組目の購入希望者|ハウスメーカーの概算で話が止まった
販売開始後、最初に具体的な検討へ進んだのは、40代のご夫婦でした。
東山線沿線で、広めの注文住宅用地を探していました。
土地の広さと周辺環境を気に入り、ご夫婦だけで見学した段階では前向きでした。
その後、依頼予定のハウスメーカーが現地を確認しました。
数日後、買主側から連絡が入りました。
「擁壁を全部やり直す可能性があると言われました」
提示されたのは、かなり幅のある概算でした。
まだ建物配置も、基礎計画も、外構計画も決まっていません。
既存擁壁をどこまで利用できるかについて、詳細な検討が終わったわけでもありませんでした。
しかし、買主様にとっては、上限側の工事費が強く残りました。
土地代。
建物代。
解体費。
そして、金額の読めない擁壁工事。
住宅ローンの事前相談でも、総事業費を整理できませんでした。
最終的に、購入は見送られました。
売主様は、落胆した様子でこう話されました。
「やはり最初の不動産会社が言った通りだったのでしょうか」
私も、その時点では確信を持って否定できませんでした。
土地の価値はある。
ただし、その価値を購入判断へつなげる情報が足りていなかったからです。
最初の販売方法にも問題があった
当初の販売資料では、次のような魅力を先に伝えていました。
- 千種区東山エリア
- 約85坪
- 地下鉄東山線利用可能
- 日当たり良好
- 閑静な住宅地
一方、擁壁については、
「敷地と道路に高低差あり」
「既存擁壁あり。詳細はお問い合わせください」
という記載にとどまっていました。
事実を隠したわけではありません。
しかし、買主が最も心配する問題を後回しにしていました。
問い合わせ後に大谷石擁壁の話を詳しくすると、買主から見れば、重要な問題が後から出てきたように感じます。
🟥 高低差や擁壁のある土地で「詳細はお問い合わせください」だけでは、買主の不安は減りません。むしろ、まだ知らされていない問題があるのではないかと想像させることがあります。
そこで、販売の順番を変えました。
土地の魅力を先に並べるのではなく、擁壁について確認できたことと、確認できないことを初期段階から共有することにしました。
想定外の展開|別の建築会社は「全面再築とは限らない」と話した
次に検討したのは、建築家と家づくりを進めていたご家族でした。
現地案内には、買主様だけでなく、設計者と建築会社の担当者にも早い段階で来ていただきました。
私は最初に、次の内容を説明しました。
「大谷石が見える擁壁があります」
「築造時の詳細図面や検査資料を確認できていない部分があります」
「既存擁壁を利用できるか、補修・補強・再築が必要かは、建築計画を踏まえた検討が必要です」
「将来、相応の工事費が生じる可能性はあります」
買主様にとって不利な情報も、最初にお伝えしました。
現地を見た建築会社は、すぐに「問題ない」とは言いませんでした。
擁壁の近くへ行き、石の状態、水抜き、敷地上部、既存建物との距離を確認しました。
道路からの搬入経路も見ました。
そのうえで、こう話しました。
「全面的な造り直しが必要になる可能性はあります。ただ、建物の配置も決まっていない段階で、全面再築が唯一の方法だとはまだ言えません」
この一言で、安全が確認されたわけではありません。
工事費がなくなったわけでもありません。
しかし、議論が変わりました。
それまでは、
古い大谷石擁壁があるから、最大額の工事費を差し引く
という考え方でした。
そこから、
どの位置に、どの規模の建物を建て、その計画では何を確認する必要があるのか
という検討へ変わったのです。
建築会社は、擁壁を「好き・嫌い」だけで見ていない
一般の購入者へ、
「古い大谷石擁壁があります」
とだけ伝えれば、不安を感じるのは当然です。
一方、設計者や建築会社は、具体的な計画へ置き換えて考えます。
- 建物を擁壁から離して配置できるか
- 建物の基礎をどのように計画するか
- 駐車場をどこへ設けるか
- 掘削が擁壁へ影響しないか
- 既存擁壁を利用する余地があるか
- 補修・補強で対応できる部分があるか
- 全面更新が必要な場合、どの範囲になるか
- 工事車両と資材の動線を確保できるか
- 工事費を資金計画へ織り込めるか
同じ土地でも、建てる家によって答えが変わります。
だからこそ、売主側の不動産会社だけで「利用できます」「造り直しです」と決めるべきではありません。
🟨 買主が求めていたのは、擁壁に問題がないという保証ではありませんでした。自分たちの建築計画では、何を調べ、どの費用を見込めばよいのかという道筋でした。
融資の場面では、もう一度話が止まりかけた
建築会社が前向きでも、契約できるとは限りません。
今回は、金融機関から追加確認を求められました。
- 既存擁壁に関する資料はあるか
- 建物と擁壁の位置関係はどうなるか
- 擁壁関連工事の可能性を資金計画へ反映しているか
- 土地と建物を含む総事業費はいくらか
- 想定外の工事が生じた場合、自己資金で対応できるか
買主様は、土地代だけでなく、建物、解体、外構、擁壁に関する予備費を含めて資金計画を組み直しました。
この段階で、売主様は不安になりました。
「前の方と同じように、また止まってしまうのではないでしょうか」
確かに、その可能性はありました。
擁壁付き土地では、購入者本人が納得していても、建築会社や金融機関が判断できなければ取引は進みません。
今回は、購入検討の早い段階から関係者へ資料を共有していたため、契約直前になって初めて問題が発覚する事態は避けられました。
金融機関との確認には時間がかかりましたが、買主様は検討を継続されました。
購入希望者が見ていたのは、擁壁だけではなかった
買主様は、大谷石擁壁を気にしなかったわけではありません。
むしろ慎重に確認しました。
そのうえで、土地全体を見ていました。
- 千種区東山という立地
- 約85坪のまとまった敷地
- 地下鉄東山線の利用環境
- 日当たり
- 落ち着いた周辺環境
- 注文住宅を計画できる広さ
- 道路からの視線を避けやすい高低差
- 建築と外構に変化をつけられる可能性
現地の奥まで歩いたあと、買主様は道路側を振り返って、こう話されました。
「この土地、擁壁ばかり見ていたら、もったいないですね」
この言葉が、今回の売却を象徴していたと思います。
擁壁は重要です。
将来の工事負担も、軽く扱うことはできません。
しかし、土地の価値は、道路側に見える石積み一つだけで決まるものでもありません。
4,200万円の査定から、6,020万円での成約へ
今回のモデルケースでは、当初の査定と最終結果に大きな差が生じました。
| 比較項目 | 当初の査定 | 再査定・販売 | 最終結果 |
|---|---|---|---|
| 価格 | 約4,200万円 | 5,800万円前後を想定 | 約6,020万円で成約 |
| 主な評価軸 | 擁壁再築・再販売リスク | 東山の立地、面積、需要、擁壁条件 | 買主の具体的な建築計画と総合判断 |
| 擁壁の扱い | 全面再築を大きく見込む | 確認事項と未確認事項を整理 | 買主側で専門確認・費用リスクを考慮 |
| 想定買主 | 買取・再販売事業者中心 | 注文住宅層、設計者・建築会社 | 建築会社と検討できる個人買主 |
| 売却の特徴 | 早さと確実性を重視 | 時間をかけて市場へ提案 | 調査・説明・融資確認を経て契約 |
大谷石擁壁を新しく造り直したわけではありません。
土地を平らにしたわけでもありません。
古家を先に解体したわけでもありません。
変わったのは、土地の見方と、情報を渡す順番でした。
最初の査定は、
擁壁付き土地を再販売する事業者が、どのくらいなら安全に買えるか
という価格でした。
最終成約は、
東山で85坪の土地を求める人が、擁壁に関する未確認事項と将来負担を理解したうえで、いくらなら購入するか
という価格でした。
どちらも、同じ条件を比べているわけではありません。
🟥 4,200万円が不当に安く、6,020万円が絶対的な正解だったと単純には言えません。早期・現況買取と、時間をかけて個人買主を探す仲介では、価格だけでなく、確実性、調査、責任、売却期間が異なります。
また、今回6,020万円で成約したからといって、すべての大谷石擁壁付き土地が同様に売れるわけではありません。
立地、面積、擁壁の状態、建築計画、市況、買主の資金力によって結果は変わります。
契約書には「擁壁あり」とだけ書かなかった
擁壁付き土地では、販売活動だけでなく、契約時の説明も重要です。
単に、
「既存擁壁あり。現況渡し」
と記載するだけでは、双方の認識が一致しない可能性があります。
今回のモデルケースでは、確認できた範囲に応じて、次のような事項を整理しました。
- 敷地と道路に高低差があること
- 大谷石が使用された既存工作物があること
- 築造時期や構造資料を確認できていない部分があること
- 不動産会社の目視で構造安全性を保証するものではないこと
- 既存擁壁を利用した建築の可否は、建築計画と専門判断によること
- 補修、補強、撤去、再築等が必要になる可能性があること
- 将来の費用負担について契約条件を確認したこと
- 買主が建築会社等へ事前確認した内容
どこまで記載するかは、物件の状況と契約条件によって異なります。
大切なのは、「現況有姿」という言葉だけで、確認していないリスクまで消えるわけではないということです。
売主が知っている事実。
調査で確認できた事実。
確認できない事項。
買主側で判断した事項。
これらを分け、書面へ反映する必要があります。
売主様は、成約価格より先に確認したことがあった
契約条件がまとまり始めたころ、売主様から電話がありました。
私は価格や日程についてのご質問だと思いました。
しかし、売主様が聞かれたのは別のことでした。
「買主様は、擁壁のことを本当に分かってくださっていますか」
最初の購入希望者が辞退しています。
契約直前になって再び話が流れることを心配されていました。
それだけではありません。
ご両親が長く暮らした土地を、問題点を隠して誰かへ引き継ぐようなことはしたくなかったのです。
私は、買主様が建築会社と現地を確認したこと、資料が残っていない部分も説明したこと、将来の工事可能性を含めて資金計画を考えていることをお伝えしました。
売主様は少し間を置いて、こうおっしゃいました。
「高く売れることもうれしいですが、後から『聞いていなかった』と言われないことの方が大切です」
相続不動産の売却では、価格だけが売主様の利益ではありません。
親が残した土地を、次の方へ無理なく引き継げること。
売却後に大きな争いを残さないこと。
それも、大切な結果です。
高値成約できた本当の理由
今回の成約理由を「東山だから」「土地が広いから」だけで説明することはできません。
また、「大谷石擁壁は問題ではなかった」とすることもできません。
高値成約につながったのは、複数の条件が重なったためです。
1.擁壁以外の価値を査定へ戻した
東山の立地、約85坪の広さ、交通利便性、日当たり、周辺環境、注文住宅需要を、擁壁とは別に評価しました。
2.最大工事費を確定費用として扱わなかった
全面再築の可能性は否定せず、それが唯一の方法かどうかは買主の建築計画と専門確認に委ねました。
3.買主だけでなく、建築会社と金融機関も判断者と考えた
購入者本人が気に入っても、施工と融資の見通しが立たなければ契約できません。関係者へ早い段階で情報を渡しました。
4.悪い情報を後から出さなかった
擁壁の状態、資料不足、将来工事の可能性を初期段階から説明しました。
5.時間をかけて、土地に合う買主を探した
買取より高い価格を目指す代わりに、売主様は売却期間と契約直前まで話が変わる可能性を受け入れました。
🟩 売却できた理由は、擁壁への不安を消したことではありません。不安を分解し、買主が建築会社や金融機関と一緒に判断できる状態をつくったことです。
売主が先に擁壁工事をするべきか
擁壁付き土地の相談では、よく聞かれます。
「売る前に、擁壁を新しくした方がよいでしょうか」
答えは、物件ごとに異なります。
明らかな変状があり、道路や隣地への危険が懸念される場合は、売却以前に安全対策を検討すべきことがあります。
一方、売主様が先に全面工事をしても、買主の建物配置や駐車場計画と合わず、追加工事や再工事になる可能性があります。
比較したいのは、次の内容です。
- 現在、緊急性のある変状が確認されているか
- 工事の法的な取り扱い
- 補修・補強・再築のどれを検討するのか
- 買主の建築計画がなくても工事範囲を決められるか
- 工事費によって売却価格がどの程度改善するか
- 工事期間中の安全と近隣対応
- 売主が工事責任を負う範囲
大谷石だから全面的に造り直す
のではなく、
現況、法令、危険性、建築計画、費用、売却条件を比べて決める
という順番が現実的です。
古家を先に解体するべきか
古家があると、
「更地にした方が見栄えがよく、売りやすい」
と言われることがあります。
確かに、更地にすれば土地形状を確認しやすくなり、買主が建築後を想像しやすくなる場合があります。
ただし、擁壁付き土地では先に確認したいことがあります。
- 解体重機やトラックの進入
- 解体時の振動が擁壁へ与える影響
- 建物基礎と擁壁の位置関係
- 土砂を押さえている構造への影響
- 隣地や道路の安全確保
- 解体後の雨水・排水
- 住宅用地に関する固定資産税等の取り扱い
- 古家を利用・改修する選択肢があるか
🟥 擁壁付き土地では、「古い建物だから、とりあえず解体」が販売条件を改善するとは限りません。解体と擁壁を別々に考えず、売却・建築計画と合わせて判断する必要があります。
大谷石擁壁のある土地で避けたい6つの判断
1.一社の査定だけで土地価値を決める
擁壁付き土地は、想定買主と工事費の見方によって査定差が出やすい不動産です。金額だけでなく、誰への売却を想定し、何を費用として差し引いたのか確認してください。
2.「大谷石だから危険」と断定する
石材名だけでは、構造や安全性を判断できません。現況、構造、排水、地盤、建築計画などを確認する必要があります。
3.反対に「長年大丈夫だったから安全」と考える
外観上大きな変状がなくても、地中の基礎や背面の状態は分かりません。不動産会社の目視だけで安全を保証することもできません。
4.調査前に最大額の工事費を確定費用として差し引く
全面再築が本当に必要なのか、買主の計画がなければ判断できないケースがあります。
5.先に高額な工事や解体を行う
工事内容が買主の計画と合わなければ、費用を売却価格へ反映できないことがあります。
6.メリットだけを広告し、擁壁の説明を後回しにする
契約直前で問題が表面化すると、購入辞退や説明トラブルにつながります。買主が検討初期に専門家へ相談できる日程と資料を用意することが大切です。
擁壁付き土地の売却前チェックリスト
名古屋市千種区・昭和区などで、擁壁のある土地を売却するときは、次の項目を確認します。
- 擁壁は誰の土地にあるのか
- 境界と擁壁の位置関係は確認できているか
- 擁壁の高さ、長さ、種類はどうなっているか
- 築造時期、施工者、構造に関する資料はあるか
- 許可、確認、検査等の記録を確認できるか
- 亀裂、傾き、はらみ、ずれ、沈下、欠損はないか
- 水抜き穴と排水経路はどうなっているか
- 増し積みや補修の履歴はないか
- 擁壁の上部・下部に建物があるか
- 隣地や道路へ影響する可能性はないか
- 盛土・造成や土砂災害関係の区域を確認したか
- 解体・新築工事へどのような影響があるか
- 買主の建築会社が現地確認できる販売日程か
- 契約書・告知書へ何を記載するか整理したか
すべての資料がそろわなければ売れないわけではありません。
古い住宅地では、築造時の資料が見つからないこともあります。
大切なのは、資料がないことを隠さず、どこから先が専門家や買主の判断になるのかを明らかにすることです。
擁壁について、誰へ何を聞くのか
擁壁付き土地では、専門家を増やせばよいわけではありません。
質問に合った相手へ確認する必要があります。
| 相談先 | 主に確認する内容 |
|---|---|
| 不動産会社 | 売却価格、買主層、販売方法、情報開示、契約条件 |
| 建築士・構造や造成の専門家 | 変状、構造、地盤、排水、建築計画への影響、補修等の必要性 |
| 建築会社 | 建物配置、基礎、駐車場、解体、施工方法、工事費 |
| 土地家屋調査士 | 境界、測量、擁壁と筆界の位置関係 |
| 行政 | 法令、区域、許可・確認記録、必要となる手続きの案内 |
| 金融機関 | 担保評価、建築計画、工事費を含む資金計画 |
土地家屋調査士が擁壁の構造安全性を判定するわけではありません。
行政に相談すれば、個別の擁壁の安全が保証されるわけでもありません。
不動産会社が目視だけで、既存擁壁を利用した新築の可否を断定することもできません。
それぞれの役割を分けることが重要です。
空き家マイスターとして感じたこと
相続不動産の査定では、一つの強い言葉が、土地全体の価値を覆い隠すことがあります。
再建築不可。
接道不足。
高低差。
古い擁壁。
未登記建物。
境界不明。
これらは、決して軽く扱ってよい問題ではありません。
しかし、一つの問題があることと、土地全体に価値がないことは別です。
今回のモデルケースでも、大谷石擁壁は最後まで消えませんでした。
築造時の詳細資料がすべて見つかったわけでもありません。
将来、工事費が発生する可能性も残りました。
それでも成約できたのは、問題を隠したからではありません。
安全だと断定したからでもありません。
分かることと分からないことを整理し、それでも東山の立地、広さ、住環境に価値を感じる買主へ届けたからです。
不動産会社の仕事は、難しい土地を「大丈夫です」と言って売ることではありません。
問題を調べる。
分からないことを認める。
判断できる専門家へつなぐ。
買主が検討できる時間を用意する。
そして、売主様が価格、時間、責任、成約可能性を比べて選べる状態にする。
それが、擁壁付き土地の売却で必要な仕事だと考えています。
まとめ|大谷石擁壁は「犯人」ではなく、調べるべき証拠だった
今回、土地価格を下げた容疑者として最初に疑われたのは、古い大谷石擁壁でした。
しかし、販売を終えて振り返ると、価格を大きく下げていたのは、石そのものだけではありませんでした。
築造時の資料がない。
必要な工事が分からない。
工事費の幅が大きい。
誰が判断するのか決まっていない。
その不確実性が、最大額の減額として価格へ反映されていたのです。
今回の高値成約につながった要素は、次のとおりです。
- 名古屋市千種区東山という立地
- 約85坪のまとまった敷地
- 地下鉄東山線の利用環境
- 日当たりと落ち着いた住環境
- 注文住宅用地としての需要
- 擁壁以外の価値を査定へ戻したこと
- 確認事項と未確認事項を分けたこと
- 建築会社・金融機関へ早期に情報を共有したこと
- 擁壁の負担を理解できる買主へ届けたこと
🟥 擁壁のある土地を、問題のない土地として売るべきではありません。
🟩 しかし、擁壁があるという一つの理由だけで、土地全体の価値を諦める必要もありません。
大谷石擁壁は、土地価値を一律に下げる犯人ではありません。
その土地の状態、建築条件、将来負担を判断するために、詳しく調べるべき証拠の一つです。
不動産売却で大切なのは、問題点を見ないことではありません。
問題点だけを見て、土地の価値を決めないことです。
名古屋市千種区・昭和区で、擁壁付き土地を相続した方へ
ふどうさんのMAGOは、名古屋市南区を拠点に、千種区・昭和区を含む名古屋市内の相続不動産、空き家、擁壁付き土地などの売却をお手伝いしています。
次のような段階でも構いません。
- 古い大谷石擁壁があるため、売れないと言われた
- 擁壁の築造時期や構造資料が見つからない
- 全面的な造り直し費用を差し引いた査定を受けた
- 高低差があり、不動産会社によって査定額が大きく違う
- 購入申込みが入っても、建築会社や金融機関の確認で話が止まる
- 建物を解体してから売るべきか迷っている
- 売却前に擁壁工事をすべきか判断できない
- 県外に住んでいて、相続した実家を管理できない
- 他社で販売しているが、値下げ以外の提案を受けていない
最初から「売れる」「高く売れる」と断定することはできません。
擁壁の状態によっては、補修・補強・再築や安全対策を優先すべき土地もあります。
まずは、現地、境界、道路、高低差、排水、行政資料、建物との位置関係、周辺需要を確認します。
そのうえで、
- 現況のまま一般市場で売る
- 古家付きで建築会社と検討できる買主を探す
- 必要な調査を先に行う
- 補修や工事後に売る
- 不動産会社へ買い取ってもらう
といった選択肢を、価格だけでなく、費用、期間、責任、成約可能性まで含めて比較します。
「擁壁がある土地だから」と最初の査定だけで決める前に、まだ調べられていない価値が残っていないか、一緒に確認してみませんか。
対応エリア
名古屋市南区・千種区・昭和区・瑞穂区・名東区・天白区・緑区・熱田区・港区・中川区・中村区・中区・守山区をはじめ、名古屋市全域および愛知県内に対応しています。
※擁壁の安全性、既存擁壁を利用した建築の可否、補修・補強・撤去・再築の必要性と方法は、擁壁の構造、築造時期、現況、地盤、排水、法令、境界および買主の建築計画等によって異なります。不動産会社の目視だけで判断せず、必要に応じて行政、建築士、構造・造成の専門家、建築会社等へご確認ください。
※宅地造成・盛土、土砂災害関係区域、建築制限および必要な許可・手続きは、所在地と工事内容によって異なります。具体的な計画については、名古屋市その他の関係機関へ個別にご確認ください。
※査定価格は売却可能性についての意見であり、その価格での成約を保証するものではありません。買取価格と仲介による想定成約価格では、売却期間、費用負担、契約条件、契約不適合責任、成約の確実性等が異なります。
※本記事は令和8年9月時点の公表情報と実務経験をもとに作成しています。本文の事例は、相談者様および物件を特定できないよう、実際の相談・売却経験をもとに所在地、面積、価格、時期、会話、経緯などの一部を調整したモデルケースです。


